【投資戦略ウィークリー 2021年4月19日号(2021年4月16日作成)】”米国株の日本株に対する優位は続くのか?”
■”米国株の日本株に対する優位は続くのか?”
- 米国株式市場は、3/31に米バイデン大統領が発表した「米国雇用計画」で中長期的な需要増の見通しが示され、かつ、その副作用として懸念された物価と金利の上昇についても米パウエルFRB議長を中心に当局関係者から物価上昇が一時的に過ぎないとする発言が相次いだことが早期の金融引き締め観測を打ち消したこともあり、景気循環株のバリュー株と高PERのグロース株の上昇が両立する理想的な相場展開となっている。対照的に、日経平均株価は先週に引き続き、3万円を目前に控えて高値圏での横ばいで推移している。何故、日本株は史上最高値を更新する米国主要株価指数の動きに追随しない鈍い動きとなっているのだろうか?。
- まず、米国株の現状を時系列的に見ると、米国株式市場を最も広範にカバーしているウイルシャー5000指数の月末時価総額合計を名目GDPで割った倍率は、2000年3月のITバブルピークを大きく超えて200%近い水準まで上昇している。これに対し、東証の1部・2部・マザーズ上場企業の月末時価総額合計を日本の名目GDPで割った倍率は今年3月末で138%であり、これは2007年6月の132%、2015年7月の138%、2018年1月の142%にほぼ並ぶ水準である。このデータから推察されることとして、日本株は米国株と比較すると、実体経済の規模とのバランスから見た場合の過去の時価総額水準が強く意識されているということである。
- 米国株式市場の時価総額合計が実体経済の規模とのバランスを意識せずに拡大している主な要因は、GAFAをはじめとした高成長のグロース株が景気循環株を含むバリュー株に対して優位性を高めていることにあるとみられる。グロース株指数をバリュー株指数で割った倍率は、米国の代表的株価指数であるS&P500では昨年の12月下旬に04倍のピークを付けた後に低下し4/9に1.95倍となっているのに対し、東証株価指数(TOPIX)では、昨年末に1.59倍のピークを付けた後に低下して4/9に1.44倍となっている。
- 主要各国で地球温暖化ガス排出量の削減が唱えられ、クリーンエネルギーへのシフトに伴う「グロースからバリューへ」が株式市場の合言葉となりつつあるように見受けられる。しかし、日米ともにグロース株のバリュー株に対する優位は大きく揺らいでいないと言えよう。この環境が続く限りは米国株の日本株に対する優位も揺るがないと見るべきだろう。その一方、バリュー株へのシフトが本格化した場合には現状の資金の潮流が逆流し、日本株が米国株に対して優位となる可能性もあるということになるかも知れない。(笹木)
4/19号では、テラスカイ(3915)、日本電気硝子(5214)、丸紅(8002)、日本再生可能エネルギーインフラ投資法人(9283)、キャピタランド(CAPL)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 4月19日(月): 東天紅、いちご、(米)IBM、コカ・コーラ
- 4月20日(火): Genky DrugStore、(米)ネットフリックス、CSX、インテュイティブサージカル、ロッキード・マーチン、フィリップ・モリス・インターナショナル、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、アボットラボラトリーズ、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)
- 4月21日(水):ジャフコグループ、(米)ラムリサーチ、ベライゾン・コミュニケーションズ、ASMLホールディング、ネクステラ・エナジー
- 4月22日(木):KOA、エイトレッド、エレマテック、オービック、オービックビジネスコンサルタント、きもと、ディスコ、光世証券、中外製薬、日本電産、(米)インテル、ベリサイン、ユニオン・パシフィック、Dow Inc、AT&T、バイオジェン、アメリカン・エレクトリック・パワー、ダナハー
- 4月23日(金): アジュバンコスメジャパン、エムスリー、キヤノンマーケティングジャパン、ジェコス、モーニングスター、モバイルファクトリー、岩井コスモホールディングス、三菱鉛筆、小野測器、蝶理、東京製鐵、日本高純度化学、(米)ハネウェルインターナショナル、アメリカン・エキスプレス
■主要イベントの予定
- 4月19日(月)
・貿易収支(3月)、東京販売用マンション(3月)、鉱工業生産・設備稼働率(2月)
- 4月20日(火)
・日銀金融システムリポート(21年4月号)、第3次産業活動指数(2月)、コンビニエンスストア売上高(3月)、工作機械受注(3月)
・米アップル製品発表会(オンライン)、インドネシア中銀が政策金利発表
・英ILO失業率(12-2月)
- 4月21日(水)
・スーパーマーケット売上高(3月)、訪日外客数(3月)
・米上院司法委小委員会でアップストア巡る公聴会、国際オリンピック委員会(IOC)理事会、上海モーターショー(28日まで)、 ロシア大統領が国民向け演説
・英CPI(3月)
- 4月22日(木)
・ビジョナルとステラファーマが東証マザーズに新規上場、ネオマーケティングが東証ジャスダックに新規上場
・対外・対内証券投資(4月11-17日)、月例経済報告(4月)
・米バイデン大統領が気候サミット開催(オンライン、23日まで)、ECB政策金利発表・ラガルド総裁記者会見、米スペースXの宇宙船打ち上げ(星出彰彦さんら搭乗)
・米新規失業保険申請件数(17日終了週)、 米中古住宅販売件数(3月)、 米景気先行指標総合指数(3月)、ユーロ圏消費者信頼感指数(4月)
- 4月23日(金)
・ホンダ三部社長就任会見(都内)、全国CPI(3月)、じぶん銀行日本PMI製造業・サービス業・コンポジット(4月)、全国百貨店売上高(3月)、東京地区百貨店売上高(3月)
・ECB専門家予測調査、ロシア中銀が政策金利発表
・米新築住宅販売件数(3月)、ユーロ圏製造業・サービス業・総合PMI(4月)
- 4月25日(日)
・衆院北海道2区、参院長野選挙区の補選、参院広島選挙区の再選挙
・米アカデミー賞授賞式
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■米国株価の実体経済からの乖離
米株価指数のウィルシャー5000トータル・マーケット指数(ウィルシャー5000)は、NYSE、NYSEアメリカン、NASDAQで取引される米国本拠の全ての企業の株式を対象とする時価総額加重平均型の株価指数であり、米国株式市場を最も広範にカバーしている。従って、ウィルシャー5000の対米国名目GDPの比率は、米国株の時価総額を名目GDPで割った倍率で株価の割安・割高を判断する「バフェット指数」と同様の意味合いを有する。
ウィルシャー5000の対米国名目GDP倍率は今年3月末に過去最高の194%に達し、2000年3月末のITバブルピーク時の143%を既に大きく上回る。これはグロース株のバリュー株に対する優位性と関係しているとみられ、株価の実体経済からの乖離の持続可能性が問われよう。
【米国株価の実体経済からの乖離~グロース株が優位な相場の持続力が鍵】
■新型コロナワクチン接種の普及
新型コロナの新規検査陽性者数は、英国では50代以上の人全員が1回目のワクチン接種を完了し減少傾向にある。4/12にはロンドンで小売店の営業が再開された。米国も4/19までに全成人をワクチンの接種対象とするようバイデン大統領が訴えるなど接種を加速しているが、3月中旬以降は漸増傾向に転じ、楽観できない。独仏およびインド、ブラジルは都市封鎖が相次ぐなど状況が悪化。
新型コロナワクチンの中では、英アストラゼネカ(AZN)と米ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)のワクチンはアデノウイルスを用いたウイルスベクターワクチンであり、血栓リスクへの懸念から調査が行われている。相対的にファイザー(PFE)やモデルナ(MRNA)の米国勢によるメッセンジャーRNA型が優位に立ちつつある。
【新型コロナワクチン接種の普及~英国が順調、mRNA型ワクチンが優位】
■再生可能エネルギー関連銘柄
世界のクリーンエネルギー銘柄で構成されるETFのiシェアーズ・グローバル・クリーンエネルギー(ICLN)は昨年3月末から今年1月上旬まで約3.5倍に急伸後、約3割下落。材料出尽くしのほか今年2月の米テキサス州の寒波に伴う大停電が再生可能エネルギーへの信頼性への疑念を強めたことなどにより、組み入れる洋上風力発電や太陽光発電システムを手掛ける企業の株価が軟調に推移。レノバ(9519)、イーレックス(9517)、米ネクステラ・エナジー(NEE)などの日米再生可能エネルギー関連銘柄も同様だ。
一方で、再生可能エネルギーのインフラに必要な銅などの非鉄金属を手掛ける米フリーポート・マクモラン(FCX)や住友金属鉱山(5713)の株価は今年1月上旬以降も相対的に堅調に推移している。
【再生可能エネルギー関連銘柄~川上の資源は強く、川下は寒波の影響】
■銘柄ピックアップ
テラスカイ(3915)
2,903 円(4/16終値)
・2006年設立。SalesforceやAWS(Amazon Web Service)のクラウドシステムにおけるソリューション事業、およびSaaSベンダーとして国内外にクラウドサービスを提供する製品事業から構成される。
・4/14発表の2021/2通期は、売上高が前期比19.8%増の111.44億円、営業利益が同7.5%増の7.79億円。クラウドサービス拡大の恩恵のほか、新型コロナウイルス感染拡大によるテレワーク実施企業、自治体、教育機関などを対象に自社製品グループウエア「mitoco」の引き合いが増加した。
・2022/2通期会社計画は、売上高が前期比18.1%増の131.59億円、営業利益が同31.2%減の5.36億円。クラウド市場の拡大と増加する案件数に対応するための人件費増加を見込んだ減益計画としている。同社が主力分野とする米Salesforce.com(CRM)の2022/1通期会社計画が前期比約21%の増収であることに加え、企業のデジタル変革(DX)需要の高まりからの業績上振れ余地もあろう。
日本電気硝子(5214)
2,708 円(4/16終値)
・1949年に日本電気(6701)から独立して創立。薄型パネルディスプレイ用ガラスなど電子・情報、および機能材料・その他の分野で特殊ガラス製品およびガラス製造機械類の製造・販売を営む。
・2/2発表の2020/12通期は、売上高が前期比5.7%減の2,428.86億円、営業利益が同8.6%増の176.60億円。3Q(7-9月)以降は回復したものの、通期では自動車関連市場向けのガラスファイバがコロナ禍の影響を受けて減収。一方で、生産性の改善や費用削減等の効果により営業増益。
・2021/12通期会社計画は、売上高が前期比7.0%増の2,600億円、営業利益が同13.3%増の200億円。テレビ向け大型液晶パネルの値上がりが加速し、指標品の今年3月の大口需要家向け取引価格が10ヵ月連続で前月比で上昇。パネル部材の供給不足が懸念されるなか、部材のガラス基板は世界3社の寡占市場であり、同社は米コーニング(GLW)、AGC(5201)に次ぐ世界3位を占める。
丸紅(8002)
915.8 円(4/16終値)
・1858年に初代伊藤忠兵衛が創業、1949年に設立。アグリ事業、食料、エネルギー、化学品、金属、建機・自動車・産機など広範な分野で輸出入・国内取引、内外事業投資などの事業を展開。
・8/4発表の2021/3期9M(4-12月)は、収益が前年同期比12.1%減の4兆6,043億円、営業利益が同横ばいの1,099.87億円。収益はセグメント別収益構成比が高いアグリ事業と食料の減収が響いた。粗利益は減益だったが、営業利益は経費削減努力およびコロナ禍に伴う経費減により横ばい。
・通期会社計画を上方修正。資源価格および穀物相場の上昇を踏まえ、当期利益を1,900億円へ黒字転換(従来計画1,500億円)、1株当たり年間配当を28円(同22円)へ増配とした。3月中旬の米中外交トップ会談後に中国の米国産トウモロコシ輸入増が加速し、穀物相場が堅調に推移。同社は米穀物商社3位のガビロンを傘下に擁し、穀物取扱高で世界5大穀物メジャーに肉薄している。
日本再生可能エネルギーインフラ投資法人(9283)
107,800 円(4/16終値)
・2016年に設立された上場インフラファンド。アールジェイ・インベストメントが設立企画人および資産運用会社。再生可能エネルギー事業を手掛けるリニューアブル・ジャパンをスポンサーとする。
・3/16発表の2021/1期(2020/8-2021/1)は、営業収益が前期(2020/7期)比0.1%増の16.22億円、営業利益が同7.6%減の3.84億円、1口当たり分配金が同横ばいの3,200円。昨夏および秋の日照不足、および昨冬の大雪といった全国的な天候不順が響き、売電収入額が会社計画を下回った。
・2021/7期(2-7月)会社計画は、営業収益が前期(2021/1期)比23.1%増の19.97億円、営業利益が同42.2%増の5.46億円、1口当たり分配金が同横ばいの3,200円。4/15終値で2022/7期までの会社予想年分配金利回りが5.94%。2050年温暖化ガス排出量実質ゼロの目標に向けて、経産省は電力を広域で効率よく使用するため地域間送電網の容量を従来の2倍にする計画案をまとめた。
キャピタランド(CAPL)
市場:シンガポール 3.76 SGD(4/15終値)
・2000年設立。シンガポール政府所有の投資会社であるテマセクHDSが過半数の持株比率を有する。不動産総合開発事業のほか、REIT(不動産投資信託)の運用に係る金融事業に強みを持つ。
・2/24発表の2020/12期2H(7-12月)は、売上高が前年同期比9.8%増の45.05億SGD、純利益が前年同期の12.60億SGDから▲16.70億SGDへ赤字転落。投資不動産の再評価に係る損失や開発プロジェクト・出資先株式に係る減損損失の計上が響いた。調整後営業利益は同26.9%減だった。
・3/22、同社は不動産投資事業をスピンオフする計画を発表。新会社キャピタランド・インベストメント・マネジメント(CLIM)を設立し、シンガポール取引所への年内の上場を目指すとした。キャピタランドは住宅やオフィス、工業団地などの開発会社として事業を継続するが、上場を廃止する見通し。CLIMは上場によって不動産投資専業でアジア最大の資産規模の上場企業となるとみられる。
■アセアン株式ウィークリー・ストラテジー
(4/19号「マレーシア通信業界の再編が進展」)
3/29号「マレーシアのMyDIGITALイニシアチブ」で述べた通り、マレーシアの通信企業間でテレコム・マレーシア(T)とアシアタ・グループ(AXIATA)の株価が堅調に推移する一方、デジ・ドットコム(DIGI)とマキシス(MAXIS)の株価が伸び悩む二極化の傾向がみられるなか、4/8、アシアタの全額出資子会社のセルコムと、ノルウェーの同業のテレノールが49%を出資するデジ・ドットコムの統合交渉が大詰めであることが発表された。6月には両社で正式合意し、年内の手続き完了を目指すとしている。実現すれば加入者数が1,900万人を超える同国の携帯通信最大手となり、5G通信に必要な多額の研究開発資金の確保で優位に立つとみられる。デジ・ドットコムの4/9終値は前日比19%上昇。残されたテレコム・マレーシアとマキシスの今後の動向が注目されよう。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。