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【投資戦略ウィークリー 2021年3月22日号(2021年3月19日作成)】”日銀金融政策決定会合、高電圧直流送電、テレビ局”

 

■”日銀金融政策決定会合、高電圧直流送電、テレビ局”

  • 日本銀行が3/19の金融政策決定会合で、ゼロ%程度に誘導する10年国債利回りの長期金利の変動許容幅を上下共に20%から0.25%程度に引き上げることを決定した。ETFの買入れに関しては、「年6兆円」の目安を削除する一方、買入れの上限である年12兆円は維持した。短期金利では日銀当座預金の政策金利残高に▲0.1%のマイナス金利適用が変わらないことから、金融機関の預貸利鞘となる長短金利差拡大に伴う収益改善が見込まれる。また、日銀はETFの買入れ対象をTOPIX連動型のみとしたことから、3/19の日本株市場は、日経平均株価が前日比で下落する一方でTOPIXは底堅く推移し、中でも銀行・保険などが軒並み上昇。低PBR(株価純資産倍率)バリュー株の水準訂正の流れが金融関連にシフトする一方、日経平均採用銘柄の中で指数への寄与度が高い高PBR銘柄値嵩株が売られやすくなる展開が考えられよう。
  •  経済産業省が洋上風力発電の送電線を海底に整備する検討に入り、陸上に比べ低コストとされる海底ケーブルを活用し、再生可能エネルギー発電の課題である送電網の増強を進めると伝えられた。長距離の送電には電力ロスが少ない高電圧の「直流」が適しており、高電圧直流(HVDC)の技術が脚光を浴びよう。HVDC市場は欧州に直流送電網を築いたスイスのABB、独シーメンス、米GEに加え、東芝6502三菱電機(6503の5社が世界市場の主要プレイヤーだったなか、昨年、日立製作所6501がABBのパワーグリッド事業の買収を完了したことで同市場の首位に躍り出ることとなった。また、住友電気工業5802はHVDCで使われる直流用海底送電ケーブルの技術を有し、シーメンスと業務提携している。
  •  政府は3/5、テレビ番組を放送と同時にインターネットでも流す「同時配信」の権利処理手続きを簡素化する著作権法改正案を閣議決定し、2022年1月から施行予定とした。同時配信のほか、「追っかけ配信」や「見逃し配信」も対象となる。放送と配信で別々に権利調整・処理が必要だった規制が緩和され、ネット広告に押されて地上波の広告収入減が経営を圧迫していたテレビ局にとっては、テレビ番組のコンテンツ販売やライセンス収入を収益の柱とできる環境が整うこととなろう。日本株の中では、エンターテイメント業界におけるIP(知的財産)資産への海外からの評価が高く、IPを擁する企業株価の高PBRが正当化される面もある。テレビ番組コンテンツといったIP資産の過去からの膨大な蓄積をネット上で活用できれば、現状の低PBRが続くとは考えにくいだろう。
  • 3/22号では、岩塚製菓(2221)、イオンリート投資法人(3292)、レンゴー(3941)、日立製作所(6501)、ウイルマー・インターナショナル(WIL)を取り上げた。

 

米のワクチン接種と航空機需要

3/16、米国の新型コロナ累計検査陽性者数が約2,954万人だったのに対し、新型コロナワクチン累計接種者数が約1億1,140万人に達した。バイデン大統領は5/1までに成人の希望者全員がワクチンを接種できる体制を整えるとした。これを受けて、時価総額上位の航空関連企業で構成されるNYSE Arca航空株指数も堅調に推移している。

世界の国際空港で国際線増便が相次ぐなか、米ボーイングBAの2月の旅客機の新規受注数が14ヵ月ぶりにキャンセル数を上回るなど航空機需要回復の兆しが見られる。航空機部品メーカーのハネウエル・インターナショナルHON、航空機エンジンを取扱うハウメット・エアロスペースHWMゼネラル・エレクトリックGEなどに対しても追い風となろう。

【米のワクチン接種と航空機需要~ボーイングと航空機部品メーカーへ恩恵】

 

■欧州のワクチン接種と原油価格

FRB(米連邦準備理事会)が3/17までのFOMC後に発表した政策金利見通しで2023年中の利上げ予想を示さなかったことから、米株式市場は堅調に推移。一方で、WTI原油先物価格は前日比でマイナスとなった。その要因として、需要面は変異株ウイルス感染が広がるなか、欧州主要国が副作用の疑いを理由にアストラゼネカ製の新型コロナワクチンの接種を一時見合わせると発表したことに伴う景気回復の遅れへの懸念が挙げられる。

供給面は、米石油・天然ガス掘削のリグ稼働数が昨年8月に記録した過去最低の244基から7ヵ月連続で増加するなど生産余力が増しているほか、OPEC加盟国とロシアなど非加盟国で構成する「OPECプラス」が5月以降に協調減産の緩和へ動くことへの警戒が挙げられよう。

【欧州のワクチン接種と原油価格~原油供給余力上昇に対し需要減懸念も】

■業種毎の日米主要企業株価比較

業種毎に日米を代表する企業の株価を相対指数で見ると、グロース株に分類される半導体製造装置ではアプライド・マテリアルズAMAT東京エレクトロン8035が相似した動きを示し、3/17の相対指数もお互いに近い水準にある。

その一方、非鉄金属の米フリーポート・マクモラン(FCX)住友金属鉱山(5713)、建設機械の米キャタピラー(CAT)小松製作所(6301)、鉄鋼の米ニューコア(NUE)日本製鉄(5401)など景気循環・バリュー株では、日本株は相対指数で米国株に比べて出遅れが目立つ。スポーツシューズの米ナイキ(NKE)アシックス(7936)、金融の米JPモルガン・チェース(JPM)三菱UFJフィナンシャルG(8306)も同様だ。対米株での割安感は日本株相場の下支え要因となろう。

【業種毎の日米主要企業株価比較~一部業種を除き米国先行・日本出遅れ】

■銘柄ピックアップ

岩塚製菓2221) 

 4,425 円(3/19終値)

・1947年に現在の新潟県長岡市で設立。せんべい・あられ・おかき等を製造する米菓事業を営む。米菓では国内3位。収益面で、出資・技術支援先の台湾の旺旺集団からの配当金収入に特徴。

・2/8発表の2021/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比1.8%増の169.95億円、営業利益が同60.7%増3.84億円、経常利益が同18.5%増の30.99億円。同社が5%の株式を保有する総合食品メーカーの旺旺集団からの株式配当金を含む受取配当金は、同15.2%増の26.26億円だった。

・通期会社計画は、売上高が前期比1.6%増の232億円、営業利益が同2.1倍の3.6億円、経常利益が同21.4%減の21.4億円。同社の株主優待は、米菓等の自社製品について100株以上で1,000円相当、200株以上で2,000円相当、500株以上で3,000円相当、1,000株以上で5,000円相当。3月のみ、200株以上を3月株主名簿に連続3回以上記載の継続保有で1,000円相当を追加する内容だ。

 

イオンリート投資法人3292

147,470 円(3/19終値)

・小売大手イオングループをスポンサーとするJ-REIT。大規模商業施設80%以上、その他商業施設20%以下、物流施設10%以下のポートフォリオ方針。海外でもマレーシアの商業施設2件を所有。

・3/17発表の2021/1期(2020/8-2021/1)は、営業収益が前期(2020/7期)比0.7%増の177.01億円、営業利益が同0.3%増の68.02億円、1口当たり分配金が同1.9%増の3,184円。昨年10月に自己資金で「イオン上田ショッピングセンター」を53.50億円で取得し、資産規模が3,955億円に拡大した。

・2021/7期(2-7月)の会社計画は、営業収益が前期(2021/1期)比0.1%減の176.90億円、営業利益が同1.4%減の67.06億円、1口当たり分配金が同0.5%増の3,200円。3/18終値で2022/1期までの会社予想年分配金利回りが4.25%、NAV(純資産倍率)が1.06倍。地域社会の「生活インフラ資産」としてイオングループ各社との固定賃料が基本のマスターリース契約により安定賃料を確保。

 

レンゴー(3941

 999 円(3/19終値)

・1909年に井上貞治郎が日本で初めて段ボール事業を開始し創業。板紙や段ボールを扱う板紙・紙加工関連事業のほか軟包装関連事業、重包装関連事業、海外関連事業、その他事業を営む。

・2/9発表の2021/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比0.8%減の5,092.85億円、営業利益が同10.6%減の311.92億円。段ボールの通販・宅配向け需要、軟包装食品におけるスーパー等の食品向け需要が堅調に推移したものの、板紙・紙加工関連事業が景気悪化に伴い減収減益だった。

・2021/3通期の会社計画は、売上高が前期比1.9%増の6,970億円、営業利益が同3.0%減の400億円。タイの素材最大手サイアム・セメントSCC傘下のフィリピンの段ボール原紙製造販売会社に資本参加したほか、昨年12月、サイアム・セメントとの合弁会社を通じてベトナムの包装資材メーカーのビエンホア・パッケージング株式約94%を取得するなど、アセアン重視の経営戦略を展開。

 

日立製作所(6501              

  5,431  3/19終値

・1910年設立の総合電機メーカー。「IT」、「エネルギー」、「インダストリー」、「モビリティ」、「ライフ」を主要5セグメントとする。情報・エレクトロニクス、電力・産業機械を始め、広範な製品群を有する。

・2/3発表の2021/3期9M(4-12月)は、売上収益が前年同期比5.8%減の5兆9,790億円、調整後営業利益が同28.9%減の3,169億円。スイスのABB社から買収したパワーグリッド事業およびIoTサービスのLumada事業が増収となったが、日立化成売却や市況悪化が全体の減収に響いた。

・通期会社計画は、売上収益が前期比5.3%減の8兆3,000億円、調整後営業利益が同36.5%減の4,200億円。パワーグリッド事業を担う傘下の日立ABBパワーグリッドは再生可能エネルギー活用と脱炭素社会実現、および広域電力取引拡大に向け、ドイツ・ノルウェー間を繋ぐHVDC(高電圧直流送電)連携システムの通電試験を開始。経産省も直流による洋上風力向け海底送電網を検討中。

 

ウイルマー・インターナショナル(WIL) 

市場:シンガポール     5.29 SGD3/18終値)

・1991年設立のアジアを代表する農業ビジネスグループであり、消費者向け食用油の生産では世界最大規模。栽培から加工、製品化まで農業ビジネスのバリューチェーン全体を網羅している。

・2/22発表の2020/12期2H(7-12月)は、売上高が前年同期比24.3%増の278.69億USD、純利益が同4.3%増の9.23億USD。販売数量増、コモディティ市況高騰、および豪食品大手グッドマン・フィールダーズの統合効果が増収に寄与。デリバティブ契約のヘッジ取引損失を吸収して最終増益。

・中国でアフリカ豚熱(ASF)からの回復で養豚数が増加傾向にあり、飼料販売増が見込まれる。また、昨年10月に深圳証券取引所のベンチャー向け市場であるチャイネクスト(創業板)に上場した中国子会社のイハイ・ケリー・アラワナ・ホールディングは、昨年12月より深圳と香港の市場の相互取引である「深圳・香港コネクト」取扱銘柄とされた。1月末の時価総額は6,610億人民元に達した。

 

■アセアン株式ウィークリーストラテジー

3/22号「アセアンでテレビ局が変革の真っ最中」

タイの放送・メディア企業のBECワールドの2020/12期4Q(10-12月)は、売上高が前年同期比15.1%減だったが、純利益が前年同期の▲2.59億THBから2.67億THBへ黒字転換。広告収入が同13.0%減に対し、「サイマル放送」(1つの放送局が同じ時間帯に同じ番組を異なるチャンネル、放送方式、放送媒体で放送すること)の拡大により、著作権・サービス収入が同33.4%増。同社放映のテレビ「チャンネル3」の人気ドラマを中国IT大手テンセントの動画配信サービス「WeTV」を通じて多くの国に配信するほか、中国でテンセントが配信するサイマル放送のドラマを同時にタイで閲覧できるようにしている。また、タイの人気ドラマをベトナムのメディア企業Datvietグループの動画配信プラットフォーム「Vieon」にサイマル放送を行っている。日本にも同様の流れが来ると期待される。

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笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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