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【投資戦略ウィークリー 2021年3月8日号(2021年3月5日作成)】”与信の「不安指数」、日銀株価連日ストップ高”

 

■”与信の「不安指数」、日銀株価連日ストップ高”

  • 日本政府は3/5夜、首都圏1都3県に発令してい緊急事態宣言の期限を21日まで2週間再延長することを決定する見通しだ。新型コロナウイルス変異株の感染者増加といった背景もあり、2週間の延長で解除できるのか不透明という見方もあるなか、影響を受けやすい飲食店、レジャー・観光・飲食店のほか、空運株やJR各社を初めとした陸運株の株価は、市場の視線がワクチン接種普及後の経済正常化後を見ていることもあり、大きな下落には至っていない。その中で、売掛債権保証を手掛けるイー・ギャランティ8771の3/4株価終値は年初来高値から25%以上下落しており、与信状況の悪化が反映されている。取引先の倒産や支払い遅延の懸念を反映する債権保証率は「不安指数」と呼ばれ、足元では77%と2019年12月から1.15ポイント上昇。新規と既存の平均でリーマン・ショック時の2009年に付けた3.3%に近づきつつある。売掛債権保証会社の株価は、与信動向を見るうえで参考となろう。
  •  日本銀行8301の株価が3/4日まで4日連続ストップ高となった。日銀の主な収入は保有している資産(国債、手形、貸出金、外貨資産等)から生じる利息収入であり、銀行券発行費用などの経費との差額が日銀の利益になる。日銀総資産額は今年2月末時点で約713兆円と10年間で約5倍に膨らんだ。この資産からの利息・配当収入が低位に抑えられるなか、金利水準が高い場合と比較すれば、金利の僅かなポイント上昇であっても全体の利息増収率は極めて高くなると考えられる。日銀は2016年9月に「イールド・カーブ・コントロール(YCC)」と呼ばれる長短金利操作を導入。2018年7月末以降、長期金利を「ゼロ%程度」に誘導する目標を維持しつつ、「プラスマイナス0.2%程度」の変動幅を容認する姿勢を示してきた。日銀株の連日ストップ高現象は、今月18-19日に開催予定の日銀金融政策決定会合において、長期金利上昇の誘導目標、および変動幅の拡大といった政策変更が行われる可能性があることを市場が織り込み始めたように見受けられる。
  •  長期金利上昇は、銀行や保険など利鞘拡大が期待できる業種への追い風となる一方、銅先物などのコモディティ価格は、中国経済が2/28発表の2月の中国製造業PMIの3ヵ月連続低下といった減速の兆しが示したこともあり下落に転じている。銀行や保険の中では、生命保険業界で中高年を中心に健康増進に関するデータをスマホアプリを通じて取得し、生命保険料の低下で還元するタイプの生命保険契約に流行の兆しが出始めており、注目される。
  • 3/8号では、日清紡ホールディングス(3105)、ユー・エス・エス(4732)、第一生命ホールディングス(8750)、日本ビルファンド投資法人(8951)、ラチャブリ・グループ(RATCH)を取り上げた。

グロース・バリューと米長期金利

米国の追加経済対策早期成立や新型コロナワクチン接種に伴う経済正常化への期待を受けて米国10年国債利回りが上昇の兆しを示すなか、高PERのグロース株から景気循環のバリュー株のシフトを予想する向きが市場で高まりつつある。その一方、S&P500株価指数のグロース指数をバリュー指数で割った倍率(グロース/バリュー比率)は足元で2.0倍近辺の水準と、高止まりの傾向にある。

新型コロナウイルス感染拡大前の昨年2月上旬は、10年国債利回りが現在の利回りと同水準の1.4-1.5%台、グロース/バリュー比率が1.6倍近辺だった。10年国債利回りが同水準かつ追加経済対策と経済正常化への期待の高まりからすれば、グロース/バリュー比率も同様に1.6倍近辺までの低下が見込まれよう。

【グロース・バリューと長期金利~金利上昇でグロース/バリュー比率低下も】

 

■欧州の温暖化ガス排出量取引

温暖化ガス排出量取引は、決められた上限を超えた企業が余裕のある企業から「排出できる権利」を買って穴埋めする仕組み。排出量削減に動機づけを与え、市場メカニズムを生かして全体の排出量を減らすための制度で、欧州では2005年に導入された。世界的な温暖化ガス排出量の削減目標や規制強化を受けて、温暖化ガス排出量取引価格が昨年12月に取引開始以来の最高値を14年8ヵ月ぶりに更新後も上昇基調で推移。

削減目標や規制強化の期間や程度が厳格になるほど「排出枠」の需給が急激に引き締まることを意味し、価格上昇要因となる。日本でも2050年を期限とする「脱炭素」目標達成に向け、排出量に応じて企業に負担を課す「カーボンプライシング」の導入検討が加速している。

【欧州の温暖化ガス排出量取引~先物価格は高値更新、日本も制度導入か】

 

■日米の主要5G通信関連銘柄

5G対応スマホの販売の好調な推移を受けてその普及が5G関連企業業績への追い風になるとみられるなか、米アップルAAPLのサプライヤーで通信向け半導体メーカーの米コルボQRVOや通信向け計測機器メーカーの米キーサイト・テクノロジーKEYSの株価が堅調に推移。その一方、キーサイトと通信向け計測機器で市場を二分する日本のアンリツ6754の株価は出遅れ感が目立つ。

5Gの基地局開発競争でフィンランドのノキアやスウェーデンのエリクソン、および中国ファーウェイに後れを取ってきた日本勢は、ファーウェイ機器の除外を米国が同盟国に求めていることから、日本電気(6701)が巻き返しを期待されている。2019年末終値を100とする相対指数では、同社は日経平均株価を上回る。

【日米の主要5G通信関連銘柄~5Gスマホ普及で注目、日本株が出遅れか】

 

■銘柄ピックアップ

日清紡ホールディングス3105

 819 円(3/5終値)

・1907年設立。無線・通信、マイクロデバイス、ブレーキ、精密機器、化学品、繊維、不動産、その他の事業セグメントで構成されるコングロマリット。「環境・エネルギーカンパニー」を目標に掲げる。

・2/10発表の2020/12通期は、売上高が前期比10.3%減の4,570.51億円、営業利益が同80.7%減の12.48億円。コロナ禍の影響によりマイクロデバイス事業、ブレーキ事業、精密機器事業、および繊維事業の減収が響いた。一方で、巣ごもり需要に伴うゲーム機関連の半導体需要は急増した。

・2021/12通期の会社計画は、売上高が前期比10.3%増の5,040億円、営業利益が同5.4倍の68億円。子会社JRCモビリティは昨年4月末にドイツの車載機器開発会社2社を買収したほか、日本無線の通信機器事業に関し今年1月に業務用無線等の移管を受けた。また、カメラ画像とミリ波レーダーのデータを組み合わせ3次元位置情報と速度情報を同時検出する技術への注目が高まろう。

 

ユー・エス・エス4732) 

1,973 円(3/5終値)

・セイシン産業と旧ユー・エス・エスが1997年に合併して設立。オート(自動車)オークションを中心に中古自動車等買取販売などを営む。オートオークション市場の同社シェアは39%(2019年)。

・2/8発表の2021/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比7.3%減の539.64億円、営業利益が同3.7%減の257.58億円。オートオークションの取扱台数は出品台数、成約台数ともに昨年5月の緊急事態宣言解除以降は回復基調にあるものの、それ以前の落ち込みが響き減収減益となった。

・通期会社計画は、売上高が前期比8.9%減の712億円、営業利益が同9.5%減の326億円。同社がまとめた業者向け中古車オークションの平均落札価格は1月が前年同月比6.1%上昇の81万7千円と8ヵ月連続で前年を上回った一方、出品台数が同1.8%減と品薄感に拍車がかかっている。自動車業界では半導体不足による生産ライン停止が相次いでおり、中古車需要が一層高まろう。

 

第一生命ホールディングス(8750

1,886.5 円(3/5終値)

・1902年に日本初の相互会社形態での保険会社として設立。2010年に株式会社へ組織変更し東証1部上場。16年に持株会社となり、傘下に国内生命保険、海外保険、その他の3事業を擁する。

・2/12発表の2021/3期9M(4-12月)は、経常収益が前年同期比5.2%減の5兆850億円、経常利益が同15.0%増の3,012億円。国内新契約年換算保険料は同40%減だが、本業のもうけを示す基礎利益は投信分配金の伸びで同5%増。また、3Q(10-12月)の経常収益は前四半期比9.5%増。

・通期会社計画を上方修正。経常利益を前期比8.8%減の6兆4,870億円(従来計画と同じ)、経常利益を同90.0%増の4,150億円(従来計画3,580億円)に引き上げた。経済環境改善を受けた資産運用収益増と再保険料の増加を見込む。長期金利上昇の追い風のほか、中高年向けにインシュランス・テクノロジー(InsTech)活用の健康応援アプリ「健康第一」を含む保険契約の普及が進もう。

 

日本ビルファンド投資法人(8951

 655,000 3/5終値

三井不動産8801を主要スポンサーとするオフィスビル特化型J-REIT。2001年上場のJ-REIT最古参銘柄の一つで資産規模1兆円を果たした最初の銘柄。日本銀行が投資口7%以上を保有する。

・2/15発表の2020/12期(7-12月)は、営業収益が前期(2020/6期)比8.2%増の417.47億円、営業利益が同11.6%増の187.12億円、1口当たり分配金が同0.1%増の11,000円。期中平均稼働率は同0.6%ポイント低下したが、新規物件収益、既存物件賃料増額、および物件売却益が貢献した。

・2021/6期(1-6月)の会社計画は、営業収益が前期(2020/12期)比11.1%増の463.96億円、営業利益が同16.3%増の217.53億円、1口当たり分配金が同3.2%増の11,350円。3/4終値での2021/12期までの会社予想年分配金利回りが3.99%。2021/12期(7-12月)に大口テナント退去による前期比減益を見込むも、金融緩和に伴う良好な資金調達環境が投資口価格を支えよう。

 

ラチャブリ・グループ(RATCH) 

市場:タイ      50.5 THB3/4終値)

・2000年設立のタイ大手電力会社。タイ王国発電公社が45%の筆頭株主。熱発電設備からなる発電所を運営する他、オーストラリアで風力・太陽光発電といった再生可能エネルギー事業を営む。

・2/24発表の2020/12通期は、燃料費を除く売上高が前期比3.1%増の161.55億THB、当期利益が同5.4%増の62.86億THB。関連会社・合弁事業からの持分法投資利益が同15.9%増となったほか、為替換算利益増が最終増益に寄与。為替の影響を除く当期利益は同1.9%減の59.82億だった。

・同社はタイのほか、オーストラリアやインドネシアで主に合弁事業として風力タービンや天然ガスなど再生可能エネルギーを中心とした発電プロジェクトを2021-2022年の工事完了に向けて進行中。2020/12期の関連会社・合弁事業からの投資利益の内、独立発電事業者(IPP)が前期比13.2%増の32.88億THR、小規模発電事業者(SPP)が同25.9%増の4.26億THBと、存在感を高めている。

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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部

笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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