【投資戦略ウィークリー 2021年3月1日号(2021年2月26日作成)】”金融緩和下の金利上昇、ボーイング関連銘柄に注目”
■”金融緩和下の金利上昇、ボーイング関連銘柄に注目”
- 先週の当ウィークリー2021年2月22号で、日経平均株価の加重平均PBR(株価純資産倍率)が2018年2月2日以来3年ぶりに3倍を超える高水準に達したこと、および米国長期金利が3年前と同様に上昇が加速していることから、株式相場が調整下落に転じる条件が揃っている面があることを述べた。米国で物価上振れリスクの台頭を受けた早期金融引締め観測が市場で強まるなか、パウエル米FRB議長は2/23-24の議会証言で景気が明確に改善するまでは金融政策を変更しないことを強調。それにもかかわらず、米国債券市場における利回り上昇の流れは止まらず、2/25には米国10年国債利回りが一時1.6%に達した。FRBの金融政策・政策金利に連動しやすい短期の2年債や5年債の利回りまで大幅に上昇するのは行き過ぎたリスクオフ心理とみる余地もあろう。リスクオフ心理の高まりは日本株市場にも波及し、2/26の日経平均株価終値は大幅下落となり、前日比1,202円安の28,966円となった。
- 米FRBは、2018年当時ではバランスシート総額を減額する緩やかな金融引き締めスタンスだったのに対し、現状は債券買入れによってバランスシート総額を増加させる金融緩和のスタンスを徹底している。その意味では、日本株において株式市場の調整下落局面があったとしても、2018年春よりも短期間に終わる可能性が高いだろう。3月決算期末対策として、政策保有株式の保有見直しのための売却など季節的要因による下落が重なれば、投資家にとって年央から年末に向けて買いチャンスと捉えられよう。
- 株式相場の変動をもたらした米国長期金利上昇は、米国の大型追加経済対策の成立および新型コロナワクチンの普及で経済が正常化することへの期待を反映したものである。その意味では、今後の株式市場は、旅行需要とともに航空機需要の高まりに焦点を当てる可能性が高いとみられる。その中でも、航空機需要に関し、航空機の生産は自動車と同様に裾野が広い産業と言われ、部品やパーツの製造を多くの企業が担い、最終的にボーイングやエアバスが組み立てる産業構造となっている。特にボーイングは、日本の三菱重工業(7011)、川崎重工業(7012)、SUBARU(7270)の3社がボーイング機の主翼をはじめ機体の大きな割合を開発・製造するほか、主要構造部分の炭素繊維を東レ(3402)が共同開発するなど、「ボーイング関連」といわれる銘柄がひしめいている。航空機部品の需要減が業績に影響してきた日本企業にとっては、航空機需要の回復が業績改善の原動力となる可能性があろう。
- 3/1号では、フューチャー(4722) 、日本電波工業(6779)、新明和工業(7224)、フルヤ金属(7826)、シンガポール航空(SIA)を取り上げた。
■テスラ1強と言えなくなってきたEV
今年1月、中国の電気自動車(EV)メーカーのニオ(NIO)が1回の充電で千キロの走行を可能にする大容量バッテリーパックを発表。これは、テスラ(TSLA)のモデルSにおける1回の充電による走行距離722キロを上回る。また、ゼネラル・モーターズ(GM)は2025年までのEVと電動自立走行車(AV)への総投資額を270億ドルとし、同年末までに米国でのラインナップの40%を同社開発のアルティウムバッテリー搭載のEVとする方針である。
米アップル(AAPL)は自動運転EV開発を巡りレーザー光を利用し周囲の状況を把握するセンサー「LiDAR」を供給する業者と協議中と伝えられ、ルミナー・テクノロジーズ(LZAR)が有力候補とみられる。これに対し、テスラはカメラなどを自動運転の主体とし、LiDAR不要との立場だ。
【テスラ1強と言えなくなってきたEV~競合企業の進化、アップルカー関連も】
■アセアンの農業関連銘柄は堅調
シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシアの農業関連銘柄はパーム油や大豆油などの植物油の相場動向に業績が影響される。パーム油や大豆油といった植物油の先物価格相場は昨年5月頃から上昇基調に転じた。パーム油は主要生産国マレーシアから主要輸出先のインドや中国向け輸出が減少したことから今年1月に2ヵ月ぶりの安値水準まで下落。一方で、中国で大豆の搾油が堅調だったことから大豆油は上昇基調を持続。
パーム油は、マレーシアでの在庫減少のほか、政府による外国人労働者の新規採用の凍結が今年6月末まで延長されて労働力不足が深刻化する懸念がある。また、大豆油は、大豆相場が南米などの天候不順により上昇基調。両者とも、価格高騰が続く可能性があろう。
【アセアンの農業関連銘柄は堅調~植物油の国際相場は引き続き上昇基調】
■オフィスビル型REITの投資時期
東京都心5区のオフィスビル市況は、新築ビルの竣工に加え、テレワーク普及などに伴い既存ビル解約の動きが出たことから、今年1月の平均空室率が前月比0.33ポイント上昇の4.82%へと悪化。1月の平均賃料単価も6ヵ月連続で低下。
2007年半ば以降、オフィスビル主体型のJ-REITで時価総額首位の日本ビルファンド投資法人(8951)の投資口価格、および東京都心5区の平均空室率と平均賃料単価の推移を見ると、平均空室率が12年12月でピーク(9.43%)となり、平均賃料単価が13年12月でボトム(16,207円)となるなか、同投資法人の投資口価格は09年3月に過去最安値を付け、12年12月以降は日銀の金融緩和強化もあり、上昇基調を辿った。投資口価格の動きは不動産市況に先行する面があろう。
【オフィスビル型REITの投資時期~空室率や賃料単価の推移との関係を探る】
■銘柄ピックアップ
フューチャー(4722)
1,774 円(2/26終値)
・1989年設立。業務システムを中心として顧客企業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を主に手がけており、ITコンサルティング&サービス事業およびビジネスイノベーション事業を展開する。
・2/4発表の2020/12通期は、売上高が前期比2.4%減の443.11億円、営業利益が同19.8%減の52.35億円。ビジネスイノベーション事業は室内トレーニング需要やオンライン教育拡大により増収増益だが、ITコンサルティング&サービス事業は一部顧客のIT投資抑制などが減収減益に響いた。
・2021/12通期会社計画は、売上高が前期比7.2%増の475億円、営業利益が同36.6%増の71.5億円。子会社フューチャーアーキテクトは融資支援システム「FutureBANK」を千葉銀行ほか「TUBASAアライアンス」加盟行に相次ぎ導入。同アライアンスは昨年12月の群馬銀行加盟により11行となった。また、同子会社は、1/15に地銀向け勘定系システム開発でSBIHD(8473)と業務提携を発表。
日本電波工業(6779)
766 円(2/26終値)
・1948年設立。水晶振動子や水晶機器等の水晶デバイス、およびその応用機器、ならびに人工水晶や水晶片(プランク)等の水晶関連品の一貫製造と販売を行う。水晶デバイスで世界シェア2位。
・2/5発表の2021/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比4.7%減の283.27億円、営業利益が前年同期の▲54.80億円から27.89億円へ黒字転換。車載向け売上高が3Q(10-12月)に急回復したが、1Q(4-6月)の落ち込みが減収に響いた。前年同期の構造改革実施の反動が利益面で寄与。
・通期会社計画は、売上高が前期比1.4%減の389億円、営業利益が前期の▲82.86億円から24億円へ黒字転換。車載向け受注の伸びが続くことから売上高を上方修正したほか、構造改革前倒しによる営業費用6億円計上を見込む。世界的な5Gサービス普及に伴い、5G通信規格向け水晶デバイスの需要拡大が期待される。現在の株価は2007年10月高値から約10分の1の水準である。
新明和工業(7224)
951 円(2/26終値)
・1949年に企業再建整備法に基づき、前身の川西航空機の第2会社として設立。輸送機器・産機製造を製造。航空機、特装車、産機・環境システム、パーキングシステム、その他の事業を営む。
・1/29発表の2021/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比9.2%減の1,470.87億円、営業利益が同18.3%減の65.96億円。航空機の民需関連を中心にコロナ禍に伴う営業・生産活動の低迷が響いた。3Q(10-12月)の前四半期比は、売上高が8.8%増、営業利益が12.2%増と回復基調で推移。
・通期会社計画は、売上高が前期比7.6%減の2,100億円、営業利益が同33.8%減の85億円。航空機事業の9Mが、米ボーイング(BA)向け製品受注および生産機数減少により受注高が前年同期比58%減、売上高が同26%減、営業利益が同97%減。米国で新型コロナワクチン普及および大型追加経済対策の成立に伴う航空機需要の回復期待が高まっており、同社への恩恵が期待される。
フルヤ金属(7826)
6,670 円(2/26終値)
・1951年設立。白金族(プラチナ、イリジウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム)を中心として工業用貴金属製品の製錬加工・販売を行う。電子、薄膜、センサー、ケミカルの4事業セグメントを営む。
・2/8発表の2021/6期1H(7-12月)は、売上高が前年同期比20.6%増の112.74億円、営業利益が同15.9%増の19.13億円。ハードディスク(HD)向けルテニウム・ターゲットや半導体製造装置向け温度センサー、電極向け化合物、貴金属精製・回収(リサイクル)の受注が堅調に推移し、増収増益。
・通期会社計画は、売上高が前期比2.1%増の233億円、営業利益が同22.3%増の45億円。プラチナは新型コロナウイルス感染拡大で南アフリカ鉱山の操業停止で供給が不足。また、2/17に京都大学が、水素生産に向けて水の電気分解において安価なルテニウムを基材とした超効率的・高耐久性の触媒(RuIrナノコーラル)を開発したと発表。同社はその量産化を検討中と伝えられた。
シンガポール航空(SIA)
市場:シンガポール 5.03 SGD(2/25終値)
・1947年に創業後、1972年にマレーシア航空から分離独立。シンガポール航空、近距離路線のシルクエアー、格安航空のスクート、SIAエンジニアリング、貨物輸送のSIAカーゴの5グループで構成。
・2/5発表の2021/3期3Q(10-12月)は、総収益が前年同期比76.1%減の10.67億SGD、純利益が前年同期3.15億SGDから▲1.42億SGDへ赤字転落。前四半期比は、旅客定員数や輸送距離の増加、および貨物輸送が伸びて総収益が36.3%増、純利益が前四半期▲23.44億SGDから赤字幅縮小。
・同社は、今年1月からドバイ、モスクワ、ミュンヘンへの旅客サービスを再開し、既に運行しているアメリカ、ヨーロッパ、南アフリカを中心に増便する予定。また、チャンギ空港に1日当たり4千人まで新型コロナワクチン接種ができる予防接種センターを設置予定。2/11、同社CEOは、同社を乗務員全員が新型コロナワクチンを接種する、世界初の完全ワクチン接種済み航空会社にすると発表。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(3/1号「エアアジア・グループの動向」)
2/9、マレーシアの格安航空会社(LCC)大手エアアジア・グループ(AAGB)が2020年のグループ4社(マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン)の運航実績を公表。通年のグループ全体の旅客数は前年比74%減だったが、10-12月期は、タイでの旅客数が前四半期比31%増、フィリピンでは同2倍、インドネシアでは同11倍と伸びた。マレーシアは10月に移動制限令(MCO)再導入の影響を受けたが、制限が緩和された12月以降は需要が急回復している。タイ・エアアジアは3月よりバンコク発着の国内線全路線を再開するなど、経済活動正常化が進展してきている。
また、3月には、同社がマレーシア首都圏を中心に展開している料理宅配サービス「エアアジア・フード」を国内の他の主要都市のほか、隣国シンガポールでもサービス開始の予定である。
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笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。