【投資戦略ウィークリー 2021年2月1日号(2021年1月29日作成)】”日経平均株価の当面の相場レンジ上限を想定”
■”日経平均株価の当面の相場レンジ上限を想定”
- 当ウィークリー1月25日号「新大統領正式就任は『期待』と『現実』の分水嶺か?」で述べた通り、今月20日近辺から株式市場を取り巻く心理が変わってきたように見受けられる。現に米国のダウ平均株価は21日に昨年来高値の31,272ドルを付けた。日経平均株価は、14日に28,979円の昨年来高値を付けた後で28,600円台を中心とした揉み合いに転じ、月末29日に下げを加速する動きを示したように、概ね大統領就任日が意識されていると見受けられる。
- 日経平均株価の当面の高値を価格チャート面から予想・推測する場合、先ずは相場レンジの中心価格を想定することが重要だろう。相場レンジの上限と下限は中心価格から同じ価格幅に位置すると考えることにより、過去の中心価格と相場レンジの下限価格が決まれば、理論上は当面の相場レンジ上限価格が決まることとなる。また、その中心価格は多くの市場参加者がかつて下値抵抗や上値抵抗の価格帯として強く意識していた価格が該当しやすいものと考えられる。2017年11月以降の時間軸で相場レンジを想定した場合、その下限は昨年3月の安値16,358円であることが明確であるなか、中心価格の候補としては22,500円または23,000円が挙げられる。計算上は、中心価格を22,500円と仮定した場合の相場レンジ上限は28,648円となり、23,000円と仮定した場合は29,648円となる。この1月に日経平均株価が28,600円台を中心として揉み合っていたことの要因の一つに、相場レンジの過去の中心価格として22,500円が意識されていることがあるという見方もできよう。
- また、米大統領選の影響を踏まえて昨年10/31の安値22,948円を下限とする当面の相場レンジを想定した場合、11/17の高値26,057円への上昇後に11/20までの下落を押し目とした動きがみられることから、26,000円近辺を中心価格として想定することは可能と思われる。その場合、計算上は相場レンジ上限が29,000円近辺となり、今月14日の高値28,979円に近いことが分かる。
- 「節分天井・彼岸底」や「1月効果」といった株式相場の格言・アノマリーが広く一般に知られるなか、2018年と2020年に続き、今年もある程度はそのような格言・アノマリーが当てはまる可能性を考えておくべきだろう。中国の今年の旧正月(春節)は2/11-17の7連休とされる。中国政府による帰省自粛の呼びかけがあり、例年より人出が少ないとしても、今月28日から3月上旬頃まで帰省などの移動が続くとみられる。日本株の調整局面があると見た場合でも、春節明け頃には調整完了からの買い転換となる可能性もあろう。
- 2/1号では、DIC(4631)、NISSHA(7915)、アニコムホールディングス(8715)、イノテック(9880)、シンガポール取引所(SGX)を取り上げた。
■米国住宅市場は引き続き堅調
米国住宅市場は、住宅ローンの低金利の追い風を受けて1/21発表の2020年12月住宅着工件数(季節調整済み)が年率換算で前月比5.8%増と06年9月以来の高水準となったほか、1/22発表の12月中古住宅販売(季節調整済み)が年率換算で前月比0.7%増と11月の減少から増加に転じるなど、堅調に推移した。
その一方、12月の中古住宅販売在庫件数は前月比16.4%減と7ヵ月連続の減少となり、販売ペース換算の在庫水準も適正水準を大きく下回る1.9ヵ月分と過去最低を更新。それに加え、中古住宅販売価格・中間価格が前月比で低下したものの、前年同月比で12.9%上昇と依然として高い伸びとなった。中古住宅の供給不足は、消費者の新築市場へのシフトや更なる住宅価格の上昇圧力となろう。
【米国住宅市場は引き続き堅調~住宅供給不足と住宅価格高騰への懸念も】
■貴金属・非鉄金属の国際相場
環境政策を公約とするバイデン米大統領の正式就任により、太陽光発電に使われる銀、自動車排ガス浄化装置向けのプラチナといった貴金属のほか、電気自動車(EV)推進策に一層弾みがつくことへの期待からモーターなどに使われる銅、蓄電池向けのニッケル、車体軽量化・燃費向上に向けたアルミニウムなどの非鉄金属の相場が更なる上昇を示すのではないかと市場でみられていた。
それに対し、今年1月に入り中国の輸入の勢いが弱まりつつあることを受け、貴金属や非鉄金属相場は足踏みに転じ始めている。昨秋以降の対ドルでの人民元高により中国勢にとっては人民元換算で米ドル建て価格が割安に映ったなか、足元では人民元高の流れが鈍っていることは相場足踏みの要因と考えられる。
【貴金属・非鉄金属の国際相場~今年1月以降は総じて減速・足踏み傾向も】
■「コモディティ・シフト」メリット業種
世界経済の全般的な商品価格動向とインフレを示す先行指標とされる「S&P GSCIトータルリターン指数」は、ITバブル崩壊からリーマンショック前までの期間に上昇後、昨年4月まで長期下落傾向を辿っていた。今後、商品価格の上昇を想定した場合、同指数が上昇していた2001年から08年の間にそのピークを上回ったことがある業種は「コモディティ・シフト」の恩恵を受けやすいとみられる。
そのような想定の下、東証1部業種別(33業種)株価指数の中から5業種が上記の条件を満たし、「コモディティ・シフト」とそれに伴う景気循環サイクルのメリットを受けやすいとみられる。鉄鋼と海運業は01年から07年に相対的に高い上昇率を示し、S&P GSCIトータルリターン指数との相関性が高いことからも要注目だ。
【「コモディティ・シフト」メリット業種~コモディティ指数との比較から探る】
■銘柄ピックアップ
DIC(4631)
2,565 円(1/29終値)
・1908年に印刷インキの製造と販売で創業した化学メーカーで旧社名は大日本インキ化学工業。印刷インキ、有機顔料、PPSコンパウンドで世界シェア首位。樹脂や電子材料へと事業を展開。
・11/13発表の2020/12期9M(1-9月)は、売上高が前年同期比10.8%減の5,143.08億円、営業利益が同13.2%減の255.77億円。7-9月は減収だったものの、幅広い地域で感染拡大が落ち着き、出版用インキや自動車向け材料などの出荷回復傾向が見られたことから前四半期比では5.2%増収。
・通期会社計画は、売上高が前期比8.9%減の7,000億円、営業利益が同15.3%減の350億円。10-12月の前四半期比では8.9%増収、21.7%営業増益を見込む。1/25、抗ウイルス・抗菌機能を有した3Dプリンタ向け熱可塑性プラスチック材料を開発したと発表。3Dプリンタ材料市場は、造形方法における技術革新の進展や材料の多様化・高機能化、試作品から最終製品への適用拡大といった要因から大きく伸長。同市場はサプライチェーン断絶リスクへの対応からも需要が高まっている。
NISSHA(7915)
1,347 円(1/29終値)
・1929年に京都で創業し1946年に設立。産業資材、ディバイス、メディカルテクノロジー、情報コミュニケーションの生産・販売を主に行う。ディバイス事業のフィルムタッチセンサーを収益の柱とする。
・11/11発表の2020/12期9M(1-9月)は、売上高が前年同期比1.9%増の1,287.85億円、営業利益が同7.5倍の32.58億円。デバイス事業のコンシューマー・エレクトロニクス製品、および産業資材事業のモビリティ製品需要の高まりが増収に寄与したほか、コスト構造改善効果が増益に貢献した。
・11/11に通期会社計画を上方修正。売上高を前期比2.3%増の1,780億円(従来計画1,660億円)、営業利益を前期▲162.47億円から55億円(同15億円)へ黒字転換とした。事業ポートフォリオ組換えによる成長を骨子とした中期経営計画の下、コンシューマー・エレクトロニクスおよびモビリティに続き、他の重点市場である医療機器やサステイナブルパッケージ資材も需要増が期待される。
アニコムホールディングス(8715)
1,135 円(1/29終値)
・2000年設立。国内シェア首位のペット保険を主力とする損害保険事業が中核事業。その他の事業として動物病院支援事業、保険代理店事業、動物医療分野における研究・臨床事業も営む。
・11/9発表の2021/3期1H(4-9月)は、経常収益が前年同期比17.7%増の235.95億円、経常利益が同2.7倍の13.30億円。堅調なペット飼育需要により保険契約数が前期末比6.7%増。また、経費管理重視の規模拡大投資により、既経過保険料ベース事業費率が前年同期比0.6%ポイント低下。
・通期会社計画は、経常収益が前期比10.0%増の456億円、経常利益が同32.4%増の29億円。コロナ禍により海外旅行に行けなかった余波で支出がペットの購入に回り、ペット保険の認知度が高まった模様。保険を引き受けられる動物の対象が広がったこと、および動物病院での診療結果のデジタル化に伴い保険料設定の基礎データが取得し易くなったことも市場拡大の要因とみられる。
イノテック(9880)
1,230 円(1/29終値)
・1980年設立。主に半導体設計用ソフトウェアや半導体テスター、および電子部品を欧米より輸入・販売する専門商社。設計開発ソリューション事業とプロダクトソリューション事業から構成される。
・11/9発表の2021/3期1H(4‐9月)は、売上高が前年同期比5.3%増の149.35億円、営業利益が同26.3%減の4.56億円。メモリー向けテスターの需要改善や決済端末販売が増収に寄与したが、ファウンドリー向け信頼性テストシステムや自動車関連向け受託サービスの低迷が利益面で響いた。
・通期会社計画は、売上高が前期比2.7%増の320億円、営業利益が同1.2%減の16.50億円。世界的な半導体の不足を受け、台湾積体電路製造(TSMC)などが最大15%の値上げを検討中と伝えられるなか、同社はNAND型フラッシュメモリー量産ラインで需要を獲得。半導体供給不足の環境は、メーカー機能の強化により自社製品売上の増加を目指す同社の事業戦略への追い風となろう。
シンガポール取引所(SGX)
市場:シンガポール 9.76 SGD(1/28終値)
・1999年設立の証券取引所および清算機関。中国、日本、インドの株価指数のデリバティブ取引に係る流動性の高いオフショア市場を提供する。コモディティや通貨のデリバティブ取引も取り扱う。
・1/22発表の2021/6期1H(7-12月)は、営業収益が前年同期比8.8%増の5.20億SGD、営業利益が同7.3%増の2.72億SGD。中国市場に係るリスク管理需要の高まり、および昨年1月に買収した指数プロバイダーのScientific社、および昨年7月に買収した通貨先物のBidFX社が増収増益に寄与。
・米情報サービスのMSCIが指数に係るデリバティブ商品のライセンスをSGXから香港取引所移管することに伴う減収懸念に対し、ロンドン証取G傘下の指数算出会社FTSEラッセルとの提携拡大のほか、デジタル証券発行・取引プラットフォーム「iSTOX」の支援、および政府系投資会社テマセクHDとデジタルアセットのインフラを構築するためのパートナシップ締結などに取り組んでいる。
■アセアン株式ウィークリー・ストラテジー
(2/1号「インドネシアの鉱山」)
インドネシアには、パプア州のグラスベルグ鉱山と北スマトラ州のマルタベ鉱山という世界的金鉱山がある。世界最大の金鉱山であると同時に世界第2位の銅鉱山でもあるグラスベルグ鉱山は、米鉱業大手のフリーポート・マクモラン(FCX)の現地法人が大半の権益を有していたなか、2018年に国営鉱業大手のインドネシア・アサハン・アルミニウムが同現地法人の株式の過半を取得し、その代わりにフリーポートは採掘権や輸出を認められることとなった。また、マルタベ鉱山の所有株式はインドネシアの重機販売大手ユナイテッド・トラクターズ(UNTR)が2018年にその95%を取得。
U.S. Geological Surveyの2018年データによれば、インドネシアの金産出量は世界第7位であり、埋蔵量は世界第4位。金価格上昇局面ではインドネシア・ルピアが上昇しやすい面があろう。
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笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。