【投資戦略ウィークリー 2021年1月12日号(2021年1月8日作成)】”緊急事態宣言、非鉄・貴金属相場、穀物相場”
■”緊急事態宣言、非鉄・貴金属相場、穀物相場”
- 政府は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、首都圏の1都3県に1/8から2/7までの1ヵ月間にわたる緊急事態宣言を発令。宣言を受け、該当都県の知事は午後8時以降の住民の外出と飲食店の営業自粛のほか、通勤の7割削減も要請した。巣ごもり消費やテレワーク普及に恩恵を受けるとみられる銘柄の中には、新型コロナワクチン開発の進展や米英などでのワクチン接種開始に伴う経済正常化の期待の高まりに対し、相対的に先行き期待が萎みやすいことから昨年秋以降に株価が下落傾向を辿っていたものが多くあった。季節的に空気が乾燥しやすい時期でもあることから感染抑制に時間がかかることも予想されることから、巣ごもり消費やテレワーク関連銘柄への物色の波に乗ることも検討されよう。
- 次に、米国における11月の大統領選・上下院議員選挙が1/5のジョージア州での上院決戦投票の2議席の獲得により、民主党がホワイトハウスと上下両院の過半数を制する「ブルーウェーブ」が実現することで決着を見た。これにより、温暖化ガス排出量削減に向けた世界的なインフラ投資への支出拡大がこれから加速することが見込まれ、電気自動車(EV)へのシフトが進むことに伴い銅やニッケル、車体軽量化のためのアルミニウムなどの非鉄金属、および、太陽光発電向けの銀や有害物質を分解する触媒としても使われるプラチナといった貴金属の需要が高まると想定される。そして、それらを加工して製品化された高技術の素材への需要も高まろう。中長期的に見ても、新素材に係る技術は、宇宙ロケット開発といった将来有望な市場分野の鍵となることが考えられ、今後の投資対象選定における大きな柱となろう。日本株の中でも特に鉄鋼株や海運株の株価は世界の商品相場と長期的にも密接な関係があることから、「コモディティ・シフト」の恩恵が見込まれよう。
- また、米先物取引所のCMEが「地球温暖化や人口増により世界人口の3分の2が2025年までに水不足に陥る」との見方を示すなか、中国は、食糧安全保障の観点、およびアフリカ豚熱(ASF)から立ち直り始めた養豚業界向けの飼料需要からも穀物の輸入を積極的に増やしている。これにラニーニャ現象などの異常気象も穀物高騰に拍車をかけている。温暖化による異常気象リスクは今後も続く可能性があろう。このような農産物を巡る市場環境の変化の恩恵を受けやすい地域がアセアンであり、農産物や加工食品関連企業はコロナ禍にかかわらず好業績だ。
- 1/12号では、愛知製鋼(5482)、ライドオンエクスプレスホールディングス(6082)、東芝(6502)、大和証券リビング投資法人(8986)、ゲンティン・マレーシア(GENM)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 1月12日(火): PR Times、アレンザHD、イオンモール、インターアクション、エーアイテイー、オンリー、クリエイトSDHD、コーナン商事、コシダカHD、コスモス薬品、スタジオアリス、セブン&アイ・HD、セントラル警備保障、タキヒヨー、トーセイ、トランザクション、ナルミヤ・インターナショナル、ポプラ、マニー、ユナイテッドスーパーマーケットHD、ライク、ライトオン、ライフコーポレーション、ワッツ、安川電機、井筒屋、技研製作所、黒谷、三栄建築設計、三光合成、進和、前澤工業、竹内製作所、中本パックス、東宝、東洋電機製造
- 1月13日(水):E・JHD、MORESCO、MS&Consulting、S FOODS、TSIHD、イオンファンタジー、イオンフィナンシャルサービス、イオン北海道、いちご、イワキ、ヴィッツ、エービーシー・マート、エコス、エスプール、コメダHD、サーラコーポレーション、サイゼリヤ、サカタのタネ、ジーフット、ジンズHD、スター・マイカ・HD、セラク、ダイコー通産、ディップ、デザインワン・ジャパン、トレジャー・ファクトリー、パソナグループ、ハブ、パルグループHD、吉野家HD、久光製薬株式会社、東京個別指導学院、東天紅、東名、日本フイルコン、乃村工藝社、(米)IHSマークイット
- 1月14日(木):and factory、AVANTIA、DDHD、Gunosy、IDOM、JNSHD、MrMaxHD、RPAHD、SFPHDTOKYO BASE、Usen-Next Hold、アルテック、インテリックス、エスケイジャパン、オオバ、キャリアリンク、キャンドゥ、クリエイト・レストランツ・HD、サインポスト、シー・ヴイ・エス・ベイエリア、システムインテグレータ、ダイト、タマホーム、テラスカイ、ドトール・日レスHD、バロックジャパンリミテッド、ファーストリテイリング、ファーマライズHD、フィル・カンパニー、プレナス、ベイカレント・コンサルティング、ベクトル、メディアドゥ、モリト、ヨシムラ・フード・HD、ラクト・ジャパン、リンガーハット、柿安本店、古野電気、佐鳥電機、三機サービス、住江織物、小津産業、松屋、松竹、大庄、日本国土開発、日本毛織、不二越、北の達人コーポレーション、北興化学工業、明光ネットワークジャパン、(米)ブラックロック、ファースト・リパブリック・バンク、デルタ航空
- 1月15日(金): ジャステック、マルカキカイ、串カツ田中HD、(米)シティグループ、ウェルズ・ファーゴ、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー、PNCファイナンシャル・サービシズ・グループ
■主要イベントの予定
- 1月11日(月)
・米アトラ ンタ連銀総裁・ダラス連銀総裁が講演、家電・IT見本市「CES」(オンライン、14日まで)
・中国CPI・PPI (12月)、中国経済全体のファイナンス規模・新規融資・マネーサ プライ(12月、15日までに発表)
- 1月12日(火)
・経常収支・貿易収支(11月)、銀行貸出動向(12月)、景気ウオッチャー調査現状・先行判断(12月)
・米3地区(ボストン、ダラス、ミネアポリス)連銀総裁・ボストン連銀総裁が講演
・米求人件数(11月)
- 1月13日(水)
・マネーストックM2・M3(12月)、倒産件数(12月)、工作機械受注(12月)
・米フィラデルフィア連銀総裁が講演、米地区連銀経済報告(ベージュブック)公表
・米CPI (12月)、米財政収支 (12月)
・ユーロ 圏鉱工業生産 (11月)
- 1月14日(木)
・日銀支店長会議で黒田総裁あい さつ、日銀地域経済報告(さくらリポート、1月)
・コア機械受注(11月)、国内企業物価指数(12月)、東京オフィス空室率(12月)
・米ボストン連銀総裁が講演、米アトランタ連銀総裁がパネル討論会で司会、パウエル米FRB議長がウェブ会議に出席
・OPEC月報、サムスン電子「ギャラクシー」関連イベント開催(オンライン)
・米新規失業保険申請件数(9日終了週)、米輸入物価指数 (12月)
・中国貿易統計(12月)、独GDP(20年)
- 1月15日(金)
・対外・対内証券投資 (1月3-9日)、第3次産業活動指数(11月)
・独与党キリスト教民主同盟(CDU)党大会(オンライン、16日まで)、韓国中銀が政策金利発表
・米小売売上高 (12月)、PPI (12月)、鉱工業生産 (12月)、企業在庫 (11月)、ミシガン大学消費者マインド指数(1月)
・中国新築住宅価格 (12月)、英鉱工業生産 (11月)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■半導体関連銘柄の物色に変化
1/5にジョージア州で上院決選投票が実施され、民主党が2議席ともに獲得する見通しとなったことから、民主党が大統領と上下両院の過半数を制する「ブルーウェーブ」が実現。グリーンエネルギーなどの環境インフラ支出が拡大するとの見通しが強まるとともに、株式市場では温暖化ガス排出削減のための電気自動車(EV)のシフトが一層鮮明となった。
フィラデルフィア半導体株指数(SOX)を構成する30銘柄の1/6終値の前日比を見ると、電力制御に係るパワー半導体関連銘柄が上位を占めた。一方で、昨年まで市場を先導したスマホやデータセンター向けのCPUやGPUなどマイクロプロセッサーや半導体製造装置、および通信機器関連銘柄の中には前日比マイナスとなるものが見られるなど明暗を分けた。
【半導体関連銘柄の物色に変化~パワー(電力制御)半導体やEV関連へ】
■アセアン4市場の主な増益銘柄
アセアン4市場(シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア)における当社取扱い銘柄に関し、昨年9月期決算まはは業績報告の純利益が前年同期比プラス、かつ、昨年12/28時点の通期当期利益の市場予想が増益となったのは9企業だった。中国におけるアフリカ豚熱(ASF)収束後の豚飼育数増に伴う飼料需要や食糧安全保障強化を受けて大豆の国際相場が上昇。それに連れて大豆油とパーム油価格も上昇したことから農産物や加工食品関連企業が軒並み好業績だ。
昨年11月の米大統領選挙後、米中貿易摩擦懸念が和らいだことやドル安傾向明確化を受け、新興国への資金流入加速の動きが見られた。アセアン銘柄の昨年の年間騰落率を見ると好業績が十分に織り込まれていない銘柄が見られる。
【アセアン4市場の主な増益銘柄~農産物・食品関連の業績が堅調に推移】
■コモディティ・シフトと鉄鋼・海運株
世界経済の全般的な商品価格動向とインフレを示す先行指標とされる「S&P GSCIトータルリターン指数」は、ITバブル崩壊からリーマンショック前までの2002年~08年前半に上昇。その後は昨年4月まで長期下落傾向を辿っていた。一方、日本株のTOPIX海運業指数・鉄鋼株指数は2002年~07年前半に上昇後、昨年3月まで長期下落傾向を辿るなど、長期的に相互に類似した値動きで推移していた。
世界的にクリーンエネルギー向けのインフラ構築需要増が見込まれ、中国でも次世代インフラ建設が進んでいることから非鉄金属や貴金属、鉄鉱石などの資源を中心にコモディティ価格上昇が見込まれ、それに伴い鉄鋼製品需要や海運需要も増加しよう。鉄鋼株と海運株はコモディティシフトの恩恵が期待されよう。
【コモディティ・シフトと鉄鋼・海運株~鉄鋼・海運株は商品相場と高い連動性】
■アセアン株式ウィークリー・ストラテジー
(1/12号「ソフトバンクGとインドネシア決済アプリ」)
インドネシアの配車大手ゴジェックとシンガポール同業のグラブとの統合協議が難航中と伝えられるなか、ゴジェックがインドネシアのネット通販大手トコペディアと統合交渉に入ったと報じられた。様々な事業や生活の起点となるプラットフォーム化された決済アプリである「スーパーアプリ」を巡り、インドネシアでグラブ傘下の「オボ」とゴジェックが手掛ける「ゴーペイ」との激しい競争において、統合後の企業価値がグラブを上回る見通しであることからゴジェックが優位に立つとみられる。
ソフトバンクG(9984)は、グラブとトコペディアの双方の大株主でありアセアンでの優位は揺らがないだろう。また、同社は米国でも配車大手ウーバー・テクノロジーズ(UBER)や宅配大手ドアダッシュ(DASH)の大株主でもある。世界的スーパーアプリ競争でも優位に立つ可能性があろう。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。