【投資戦略ウィークリー 2020年12月21日号(2020年12月18日作成)】”供給制約の強い市場、新興国の生活変化に注目”
■”供給制約の強い市場、新興国の生活変化に注目”
- 日経平均株価は、米国の主要株価指数が史上最高値を更新するなか、株価指数先物とオプション取引の最終決済に係るSQ値算出日が重なる「メジャーSQ日」(12/11)が過ぎた後も26,600-26,800円台で堅調に推移している。米FRBは月額1,200億ドルの債券購入ペースを維持するなか、今年11月末現在のバランスシートの対GDP比率は34%に過ぎず、欧州中央銀行の61%、日銀の133%と比べても量的金融緩和の余地の大きさがうかがえる。基軸通貨である米ドルの供給は今後も継続的に増加すると見込まれる。
- その一方、暗号資産のビットコインは発行枚数上限が2,100万枚となるように設計され、今年5月の「半減期」に増加した発行枚数は、従来の1,575万枚に対し上限まで残枚数の半分である262万5千枚にとどまった。次の4年後の半減期には131万2千5百枚しか発行枚数が増加しないことが決まっており、供給増加ペースがプログラム上で管理されている。このように供給に制約があれば、需要動向次第で市場価格が上昇し易くなる面は大きいと言えよう。
- 12/7に水の先物を上場した米先物取引所のCMEは「地球温暖化や人口増により世界人口の3分の2が2025年までに水不足に陥る」との見方を示した。水不足の深刻化は水資源の成長を後押しすると見込まれる一方、穀物生産量の減少による食糧危機や衛生環境の悪化による健康悪化にも繋がる。株式市場の物色対象は、現在、温暖化ガス排出削減の観点から電気自動車(EV)やそれを支える電力制御技術・素材などに向いているが、水資源の供給確保に関する技術を有する企業は存在価値が高まるだろう。
- その他にも、需要の高まりに供給が追い付かない商品・プロダクトを扱う市場は株式投資の対象となり得る。その中でも開発の初期段階から守秘義務契約を結んで取引先メーカーとコミュニケーションをとる必要がある通信向け計測機器のように参入障壁が高いか、あるいは、熟成に長い年月がかかる年代物ウィスキーのように増産に期間を要する市場は中長期投資として狙い目だろうう。
- 米大統領選挙後、米ドル安や商品市況の回復に伴う新興国への資金流入が増加している。人口が約13億5千万人のインド、約2億7千万人のインドネシアなどを含め、新興国市場は所得水準向上により消費支出の伸びや生活習慣・食生活のスタイルなどの変化が見込まれる。「アフターコロナ」で外食に出て外国料理に親しむ人も増えよう。また、糖尿病(2型)など生活習慣病の増加も予想され、人工膵臓や人工腎臓などの需要も高まるとみられる。
- 12/21号では、アサヒグループホールディングス(2502)、東洋紡(3101)、壱番屋(7630)、日本再生可能エネルギーインフラ投資法人(9283)、IHHヘルスケア(IHH)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 12月21日(月):西松屋チェーン、日本オラクル、クスリのアオキホールディングス
- 12月22日(火):(米)カーマックス、シンタス
- 12月23日(水):(米)ペイチェックス
- 12月25日(金):TAKARA & COMPANY
■主要イベントの予定
- 12月21日(月)
・ポピンズホールディングス(東証1部)、いつも(東証マザーズ)が新規上場
・2021年度当初予算案の閣議決定、資金循環統計(7-9月期速報)、コンビニエンスストア売 上高(11月)
・米テスラがS&P500種 株価指数の構成銘柄に採用、欧州医薬品庁(EMA)のヒト用医薬品委員 会(CHMP)が米ファイザーと独ビオンテック新型コロナワクチン 巡り会合
・ユーロ圏消費者信頼感指数(12月)
- 12月22日(火)
・ウェル スナビ・Kaizen Platform・ヤプリが東証マザーズに新規上場、トヨタのMaaS専用 EV「eパレット」オンライン発表会
・スーパーマーケット売上高(11月)、全 国百貨店売上高(11月)、 東京地区百貨店売上高(11月)、工作機械受注(11月)、月例経済報告(12月)
・米GDP(3Q)、中古住宅 販売件数(11月)、消費者信頼感指数(12月)、英GDP(3Q)
- 12月23日(水)
・日銀金融政策決定会合議事要旨(10月28・29日分)
・交換できるくん・ENECHANGEが東証マザーズに新規上、JR東日本と西武HDの社長が包括的連携で会見(都内)、景気先行CI指数・景気一致指数 (10 月)
・タイ中銀が政策金利発表、バー米司法長官退任
・米新規失業保険申請件数 (19日終了週)、個人所 得・支出 (11月)、耐久財受注 (11月)、FHFA住宅価格指数 (10月)、新築住宅販売件数 (11月)、ミシガン大学消費者マインド指数 (12月)
- 12月24日(木)
・東京通信(東証マザーズ)、グローバルインフォメーション(東証ジャスダック)新規上場
・黒田日銀総裁が経団連審 議員会で講演(都内)
・米株式・債券市場が短縮取引、ECB経済報告、トルコ中銀が政策金利発表
- 12月25日(金)
・SANEI(東証2部)、ファンペッ プ(東証マザーズ)、東和ハイシステム(東証ジャスダック)が新規上場、河野太郎行政改革担当相が日本記 者クラブで会見
・有効求人倍率 (11月)、 完 全失業率 (11月)、東京CPI (12月)、小売売上高 (11月)、百貨店・スーパー売上高(11月)、 住宅着工戸 数 (11月)、建設工事受注(11月)
・米国、欧州、香港休場 (クリスマス)
- 12月27日(日)
・中国工業利益 (11月)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■米長期金利・米ドル・株価指数
米国の10年国債利回りから10年物価連動国債利回りを差し引いた値であるブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)が12/15に2019年5月以来となる1.9%超えまで上昇。同日、物価連動国債利回りも約4ヵ月ぶりにマイナス1%を下回った。12/16に発表されたFOMC(連邦公開市場委員会)声明および議長記者会見で長期債の購入拡大や対象年限の長期化への動きが見られなかったことから、FRBが長期金利上昇を容認したのではないかとの観測が市場で流れた。
期待インフレ率上昇の下で長期金利上昇が抑えられれば、実質金利となる物価連動国債利回りがマイナスとなり、米ドル安とともにグロース株への恩恵が見込まれる。FRBが長期金利上昇抑制に動くかどうかに今後の市場の注目が集まろう。
【米長期金利・米ドル・株価指数~10年国債利回りとBEIの利回り差に注目】
■鉄鉱石は値上り、コークスは値下り
高炉が製鉄の主原料に使う鉄鉱石の国際相場が上昇中だ。中国の旺盛な需要に加え、ブラジルの資源大手ヴァーレが鉄鉱石の生産計画を引き下げたことが理由とみられる。その一方、高炉のもう一つの主原料であるコークス向け原料炭に関し、オーストラリア産の国際相場は今年9月中旬から下落基調に転じた。
昨年からオーストラリアでの中国のスパイ工作活動への疑惑が相次ぎ豪中間の関係が悪化していたなか、中国は、今年になって新型コロナウイルスのパンデミックに関する第三国による調査をオーストラリアが要求したことに反発。制裁報復措置として豪州産の主要商品の輸入を11/6から停止した。現在、豪州産の原料炭輸入が停滞していることから中国による政治的圧力の存在が囁かれている。
【鉄鉱石は値上り、コークスは値下り~中豪関係の悪化の影響を考える】
■J-REITおよびインフラファンド
TOPIX(東証株価指数)の会社予想配当利回りとJ-REIT銘柄で構成される東証REIT指数の会社予想分配金利回りの推移を見ると、今年3月中旬以降、TOPIXの予想配当利回りが低下したのに対し、東証REIT指数の予想分配金利回りは4%台で高止まりしている。2018-2019年には両者の利回り格差が縮小するに伴い東証REIT指数が上昇しており、この利回り格差が東証REIT指数の動向の鍵を握ろう。
J-REITおよびインフラファンドは、分配金利回りだけでなく投資口価格の対時価純資産倍率である「NAV倍率」も注目される。当ウィークリー「銘柄ピックアップ」で今年取り上げた銘柄の中でも物流施設主体のJ-REITはNAV倍率も1倍を超えてきた。NAV倍率が高くなれば公募増資の可能性が高まる点に要注意だろう。
【J-REITおよびインフラファンド~分配金利回りと株式配当利回りの差に着目】
■アセアン株式ウィークリー・ストラテジー
(12/21号「アセアン4ヵ国の新型コロナ感染対策」)
アセアン4ヵ国は新型コロナ感染症対策として以下の措置を実施中である。①シンガポールは、12/28より経済・社会活動制限の緩和措置について第3期に移行する予定。その初期段階ではグループ活動などの人数制限が緩和される。②タイは、全土に出している非常事態宣言について、期限を11月末から来年1/15まで延長して発令中。③マレーシアは、「回復のための活動制限令(RMCO)」を実施していたなか、指定地域について12/7から12/20までの予定で「条件付き活動制限令(CMCO)」を施行中。④インドネシアは、首都ジャカルタ特別州政府が新型コロナウイルス対策の「大規模な社会的制限(PSBB)」を緩和する「移行期間」について、期限を12/20まで2週間延長して実施中。感染者の大幅な増加がなければ、更なる延長を来年1/3までとする方針である。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。