【投資戦略ウィークリー 2020年8月24日号(2020年8月21日)】”予想PER20倍の壁、米国企業との提携”
■”予想PER20倍の壁、米国企業との提携”
- 日米ともに4-6月期決算発表が一巡した。売買材料が乏しくなったせいだろうか、東証1部の売買代金が8/17以降は2兆円割れが続き、日経平均株価は23,000円を超えたところで勢いを失ってきたように見受けられる。8/20終値の22,880円は日本経済新聞発表の加重平均予想PER(株価収益率)で75倍、加重平均PBR(株価純資産倍率)で1.09倍となっている。加重平均予想PERは、日銀の黒田総裁が「黒田バズーカ」と言われた量的・質的金融緩和を発表した2013年4月末以降は20倍未満で推移してきたなか、今年の5/13-6/5までの期間において7年ぶりに20倍を超える状況が発生した。これは、コロナ禍の影響で会社の通期減益見通しが相次ぐ一方で、新型コロナウイルス新規感染者が減少傾向を示し、政府による緊急事態宣言が解除され、経済活動再開への期待の高まりに伴って日経平均株価が上げ足を速めたため、株価の1株当たり利益に対する倍率であるPERが上昇したためと考えられる。
- 加重平均予想PERは6/8以降に20倍未満となっていたが、8/7以降、決算発表で通期会社予想利益の下方修正が発表されたことを反映して再び20倍を超えることとなった。NYダウ平均株価(8/20終値の予想PERは1倍)と比較すれば割安と言えそうだが、5/13-6/5の期間と比較した場合、全国的に新型コロナウイルス流行は収まっておらず、東京都で酒類提供の飲食店やカラオケ店での営業時間の短縮が要請されるなど経済活動再開への期待度は低下しているように見受けられる。このような環境下で20倍超えの定着は見込みにくく、次の9月期決算発表まで会社利益見通しに大きな変更が見られなければ、今週の動きに見られるように、日経平均株価の23,000円超えの定着は容易ではないだろう。
- ただし、当ウィークリー先週号で述べた通り、来年の衆議院議員と自民党総裁の任期満了を睨み、秋の臨時国会を控えて政局が動き始めている点は日本の政治・経済の変化に繋がる可能性があるものとして日本株の予想PERを押し上げる要因となり得よう。
- 短期的には、成長中の米国企業が現状の株価水準を維持できるのかが懸念されるなか、それらの企業と密接な関係を築いている日本企業は業績拡大のチャンスを得ていると言えよう。昨年9月にAmazon「プライムナウ」に国内食品スーパーとして初出店したライフコーポレーション(8194)、セールスフォースのコンサルティング・パートナーであるテラスカイ(3915)はその一例だろう。パナソニック(6752)も、太陽電池事業で提携を解消していたテスラのEV向け電池の増産投資を発表。今後に向けて有望と言えるだろう。
- 8/24号では、岩塚製菓(2221)、大日本住友製薬(4506)、パナソニック(6752)、フクダ電子(6960)、IOI(IOI)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 8月25日(火): セールスフォース・ドットコム、インテュイット、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ、オートデスク、ベストバイ、JMスマッカー、ホーメルフーズ、メドトロニック
- 8月26日(水):タカショー、リクルートホールディングス、ネットアップ、スプランク
- 8月27日(木): ルックホールディングス、凸版印刷、DMG森精機、ギャップ、アルタ・ビューティ、コティ、ダラー・ゼネラル、HP、ダラー・ツリー、ワークデイ
- 8月28日(金): THEグローバル社、曙ブレーキ工業、FIG株式会社、三城ホールディングス
■主要イベントの予定
- 8月24日(月)
・安倍首相の連続在職日数が2,799日となり歴代単独1位 に
・伊藤忠によるファミリーマートへのTOBの期限
・米共和党全国大会(27日まで)、米郵政公社総裁が下院委員会で証言
- 8月25日(火)
・インターファクトリーが東証マザー ズに新規上場
・米サンフ ランシスコ連銀総裁がパネル討論会に参加(オンライン)
・米主要20都市住宅価格指数 (6月)、米FHFA住宅価格指数 (6月)、米新築住宅販売件数 (7月)、米消費者信頼感指数 (8月)
・独GDP (2 Q)、独IFO企業景況感指数 (8月)
- 8月26日(水)
・企業向 けサービス価格指数(7月)
・米耐久財受注 (7月)
- 8月27日(木)
・対外・対内 証券投資(8月16-22日)、 全産業活動指数 (6月)、工作機械受注 (7月)、月例経済報告(8月)
・米カンザスシティー連銀が年次シンポジ ウム(28日まで、オンライン)
・国際ゲーム見本市「ゲームズコム」(30 日まで、オンライン)
・米 GDP確定値 (2Q)、米新規失業保険申請件数 (8月22日終了週)、米中古住宅販売成約指数 (7月)
・ユーロ圏マネーサプライ (7月)
・中国工業利益 (7 月)、韓国中銀が政策金利発表
- 8月28日(金)
・東京 CPI (8月)
・英中銀総裁がカンザスシティー連銀のシンポジウムで講演
・米個人所得 (7月)、米個人支出 (7月)、米ミシガン大学消費者マインド指数 (8月)
・ユーロ圏景況感指数 (8月)、ユーロ圏消費者信頼感指数 (8月)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■米国大手小売・ホームセンター企業
米国大手小売・ホームセンター企業の5-7月期決算が8/19-20に発表された。小売り最大手ウォルマート(WMT)、ディスカウントストア大手のターゲット(TGT)ともに新型コロナウイルス流行を背景に宅配需要やネット通販売上高が拡大。ホームセンター大手のホーム・デポ(HD)、ロウズ(LOW)ともに、消費者が自宅で過ごす時間が増え修繕する需要が高まったことから大幅増収増益となった。
ただし、米政府の失業給付拡充や現金給付による消費押上げ効果が一巡するなか、7月の米小売り売上高は前月比1.2%増と伸び率が6月(8.4%増)から鈍化。その一方、住宅市場は4月以降の伸びが8月まで続いている。3/23以降の株価騰落率でホームセンター関連が小売り関連を上回っていることが注目される。
【米国大手小売・ホームセンター企業~ホームセンター関連が相対的に優勢】
■アセアンの農業関連銘柄は堅調
シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシアの農業関連銘柄はパーム油や大豆油などの植物油の相場動向に業績が影響される。植物油の先物価格相場は今年年1-4月に新型コロナウイルスの影響による中国での需要減や「HORECA」(ホテル、レストラン、ケータリング)からの需要低下などが響き下落傾向だったが、インドネシアでバイオディーゼル30%混合の「B30」が年初より義務化されたことのほか、コロナ禍に伴う移動制限で労働者が集まりにくかったことで需給が改善。5月以降は相場が堅調に推移している。
植物油に関して上流のプランテーションや下流の消費者向け製品の製造加工といった農業関連事業を手掛ける主要アセアン企業の株価も今年3月以降は堅調に推移。有望分野と見なされよう。
【アセアンの農業関連銘柄は堅調~植物油の国際相場が5月から上昇基調】
■重要日程を控え政局意識相場へ
今年も例年通りならば10-12月に秋の臨時国会が開かれるなか、新型コロナウイルス特措法改正に向けて臨時国会の早期召集を求める声も上がっている。来年は7-8月にオリンピック・パラリンピックが予定されており、年末までに来年開催可否の方向性が出されると伝えられている。国内の感染者数などの動向次第では年内の衆議院解散総選挙の可能性が強く意識されるのではないだろうか。
前回の衆議院解散は2017年9月に行われ、10月に総選挙となった。日経平均株価の加重平均PBR(株価純資産倍率)や加重平均予想PER(株価収益率)は、衆議院解散総選挙を挟んだ2017年9月-2018年1月にかけて加重平均PBRが1.22倍から1.39倍まで上昇し日経平均を押し上げた。政局の行方が重要となろう。
【重要日程を控え政局意識相場へ~衆議院解散総選挙とPBR・PBRの関係】
■アセアン株式ウィークリー・ストラテジー
(8/24号「バンコク反政府集会に関して」)
タイの首都バンコクで8/16、軍出身のプラユット首相の政権に退陣を求める反政府集会が開かれ、若者を中心に2-3万人が参加するなど2014年の軍事クーデター以降で最大規模となった。7月末が期限だった新型コロナウイルス対策の非常事態宣言が8月末まで再延長されたなか、タイでは感染が抑え込まれているにもかかわらず宣言が再延長されたことに対し、反対勢力を抑えたい目的があるのではないかとプラユット政権に対する不信感が国内で高まっている模様だ。16日の集会では、不敬罪が存在しタブーとされる王室のあり方に踏み込む発言まで出始めた。サイアム・セメント(SCC)やサイアム商業銀行(SCB)など、タイ王室が筆頭株主でタイの旧国名Siam(日本ではシャムとも言われる)に由来する「サイアム」の冠名がある企業にとっては気になる動きかもしれない。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。