【投資戦略ウィークリー 2020年8月3日号(2020年7月31日)】”調整局面完了のタイミングを見計らう時期か?”
■”調整局面完了のタイミングを見計らう時期か?”
- 経済活動再開から経済拡大の流れに陰りが見え始めた。東京都は7/30、新型コロナウイルス感染防止策として都内全域の酒類を提供する飲食店とカラオケ店に8/3~8/31までの期間、再び営業時間の短縮を要請すると発表した。あたかも、今年3月の春分の日に係る連休後に不要不急の外出自粛要請の会見を行った時点に時計の針が戻ってしまったように見受けられる。株式市場においても、日本航空(9201)が7/31の取引時間中に1,700円割れとなり、今年4/6に付けた年内最安値1,656円に近づいた。ANAホールディングス(9202)も7/31の取引時間中に2,120円まで下落し、4/6に付けた年内最安値2,060円に近付いた。経済活動再開に伴う人の流れに業績が左右されやすい航空株の下落に先導され、日本株式市場全体も二番底へ向かうのだろうか?
- その一方、東京都が公開している新型コロナウイルスの感染動向によれば、7/30現在、入院者数は1,154人(確保病床2,800床)、うち重症患者数が22人(同100床)と医療体制には未だ余裕があり、春の時点とは状況が異なると考えられる。また、7/26に西村経済再生担当大臣が経済界にテレワーク7割の導入を再要請したことを受け、テレワークを前提とした経済・ビジネスへの移行にNTT(9432)をはじめとする日本の大企業グループが動き出している。テレワーク社会の構築が日本経済の大きな柱になると見られる。
- 日経平均株価を振り返ると、年内高値24,115円を付けた1/17から、年内安値16,358円を付けた3/19までが43営業日であり、3/19から数えて42営業日目の5/22は、6/9に付けた3月以降の高値23,185円まで日経平均株価の上昇加速の起点となった。このような値動きの周期性を考慮すれば、6/9から数えて42営業日目が8/6、43営業日目が8/7となることから、7/15頃からの日経平均株価下落に伴う調整局面が来週まで続く可能性も考えられよう。日経平均株価の7/30終値での加重平均PBR(株価純資産倍率)が06倍であることから、加重平均PBR1.0倍に相当する日経平均株価は計算上21,074円となる。米国でも週次で発表される新規失業保険請求件数が2週連続で前週比増加するなど、雇用の回復に天井感が出始めている。8/7は米国雇用統計が発表される日でもあり、ファンダメンタルズの観点からも重要な転機となり得よう。
- コロナ禍以外にも、豪雨に伴う河川の氾濫といった自然災害への対応が待ったなしで求められている。海外に目を向ければシンガポールでテング熱の大流行も発生している。どの日本企業がこれらの問題への解決に貢献するのかも注目されよう。
- 8/3号では、タマホーム(1419)、アキレス(5142)、技研製作所(6289)、スタンレー電気(6923)、IHHヘルスケア(IHH)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 8月3日(月): NTTドコモ、イビデン、エーザイ、カプコン、キッコーマン、キッセイ薬品工業、ケーズHD、コクヨ、スズキ、ハウス食品グループ本社、ヒロセ電機、フジクラ、マルハニチロ、科研製薬、京王電鉄、三菱重工業、西武HD、大和工業、東ソー、日本軽金属HD、日本航空、日本水産、AIG
- 8月4日(火): NOK、SUBARU、アステラス製薬、オリックス、カカクコム、クボタ、サンゲツ、サンリオ、ソニー、ダイキン工業、ニチレイ、ファンケル、ブラザー工業、ミネベアミツミ、ヤマハ、リコー、旭化成、伊藤忠テクノソリューションズ、王子HD、丸紅、九州旅客鉄道、戸田建設、五洋建設、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱ケミカルHD、山崎製パン、住友化学、双日、長瀬産業、東海カーボン、東京建物、日本光電工業、日本触媒、日本精工、日本製鉄、ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニー、アクティビジョン・ブリザード
- 8月5日(水): アサヒグループHD、アリアケジャパン、アルフレッサ HD、いすゞ自動車、オリンパス、サントリー食品インターナショナル、シスメックス、シャープ、セガサミーHD、ツムラ、ディー・エヌ・エー、ユニ・チャーム、ライオン、レーザーテック、レンゴー、伊藤忠商事、三浦工業、参天製薬、西松建設、大成建設、大正製薬HD、大日本印刷、帝人、電源開発、東京センチュリー、日清食品HD、日清紡HD、日油、日立キャピタル、浜松ホトニクス、不二製油グループ本社、本田技研工業、CVSヘルス、モデルナ、ファイサーブ、ウエスタンデジタル、リジェネロン・ファーマシューティカルズ
- 8月6日(木):LIXILグループ、SUMCO、THK、TIS、アズビル、エア・ウォーター、ゴールドウイン、コナミHD、サッポロHD、スクウェア・エニックスHD、ダイフク、テルモ、テレビ朝日HD、トヨタ自動車、ニコン、ネクソン、パイロットコーポレーション、ピジョン、フジ・メディアHD、ペプチドリーム、めぶきフィナンシャルグループ、ヤマダ電機、ヤマハ発動機、リンナイ、奥村組、丸井グループ、京阪HD、栗田工業、古河電気工業、江崎グリコ、国際石油開発帝石、三井住友建設、三井不動産、三菱マテリアル、三菱瓦斯化学、資生堂、鹿島建設、住友ゴム工業、住友ベークライト、住友大阪セメント、出光興産、神戸製鋼所、西日本鉄道、川崎重工業、前田建設工業、前田道路、沢井製薬、長谷工コーポレーション、島津製作所、東京応化工業、東京放送HD、東洋紡、日本パーカライジング、日本ユニシス、日本製紙、日本特殊陶業、日本発条、任天堂、名古屋鉄道、ブッキングHD、ブリストル・マイヤーズ・スクイブ、TモバイルUS、イルミナ
- 8月7日(金): DOWAHD、H.U.グループHD、MS&ADインシュアランスグループHD、SANKYO、SMC、SOMPOHD、T&DHD、TOYO TIRE、アマダ、エヌ・ティ・ティ・データ、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、かんぽ生命保険、キリンHD、クレディセゾン、グローリー、コムシスHD、シップヘルスケアHD、スズケン、セイノーHD、セブン銀行、ゼンショーHD、ダスキン、テクノプロ・HD、デンカ、ニッコンHD、ニプロ、バンダイナムコHD、ブリヂストン、ベネッセHD、ホシザキ、ゆうちょ銀行、リゾートトラスト、リログループ、リンテック、横浜ゴム、関西ペイント、丸一鋼管、岩谷産業、京浜急行電鉄、協和エクシオ、近鉄グループHD、三井金属鉱業、三菱UFJリース、三菱地所、住友金属鉱山、住友商事、上組、太陽誘電、大塚HD、大和ハウス工業、第一興商、東レ、東急不動産HD、東京海上HD、日本郵政、博報堂DYHD、飯田グループHD
■主要イベントの予定
- 8月3日(月)
・モダリスが東証マザーズに新規上場
・GDP(1Q)、じぶん銀行日本PMI製造業 (7月)、自動車販売台数 (7月)
・米セントルイス連銀総裁がバーチャルイベント講演、米シカゴ連銀総裁が記者団と電話会見
・米自動車販売 (7月)、米ISM製造業景況指数 (7月)、米建設支出 (6月)
・ユーロ圏製造業PMI(7月)、中国財新製造業PMI(7月)
- 8月4日(火)
・東京CPI (7月)、マネタリーベース(7月)
・豪中銀が政策金利発表、ユーロ圏PPI(6月)
・米製造業受注 (6月)
- 8月5日(水)
・黒田日銀総裁とイエレン前FRB議長、「ウィズ・コロ ナ時代の中央銀行」をテーマに講演
・米クリーブランド連銀総裁がバーチャルイベントで講演
・ブラジル中銀が政策金利発表、タイ中銀が政策金利発表
・米ADP雇用統計(7月)、米貿易収支(6月)、米ISM非製造業総合景況指数(7月)
・ユーロ圏総合・サービス業PMI(7月)、ユーロ圏小売売上高(6月)
・中国財新サービス業・コンポジットPMI(7月)、インドネシアGDP(2Q)
- 8月6日(木)
・対外・対内証券投資 (7 月26日-8月1日)
・米ダラ ス連銀総裁がバーチャルイベントで講演、
・英中銀が政策金利発表・総裁記者会見、インド中銀が政策金利発表、フィリピンGDP(2Q)
・米新規失業保険申請件数 (1日終了週)
・独製造業受注 (6月)
- 8月7日(金)
・ティアンドエスが東証マザーズに新規上場
・毎月勤労統計–現金給与総額・実質賃金総額・家計支出(6月)、景気先行CI・一致指数(6月)
・米雇用統計(7月)、米卸売在庫 (6月)、米消費者信用残高 (6 月)
・独貿易収支 (6月)、独鉱工業生産 (6月)
・中国外貨準備高 (7月)、中国貿易収支(7月)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
■半導体の7nmと10nmを巡る争い
7/23に米半導体大手のインテル(INTC)が4-6月期決算と同時に、回路線幅7ナノ(ナノは10億分の1)メートル(nm)の半導体技術の開発が予定よりも6ヵ月遅延していると発表。翌24日の株価終値は前日比16%以上下落した。同社は現在使われている10nmの半導体技術開発も遅延していることから、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)などとの競争で不利になると懸念された。
その一方、AMDは台湾積体電路製造(TSM)への生産委託により既に7nmのCPUを販売していることから、AMDと台湾積体電路製造の株価が上昇し、インテルの株価を上回った。インテルに対し、設計から製造まで一貫して行う事業モデルから製造を他社へ委託する方針へ転換するのかどうかが市場の焦点となろう。
【半導体の7nmと10nmを巡る争い~インテルの7nm開発遅延が波紋を呼ぶ】
■無国籍通貨の金から見た資産価値
国家の信用力に依存しない「無国籍通貨」の金は、希少性が高く無価値にならないため世界の基軸通貨であるドルの下落局面で代替資産として買われやすい。1USDをCMX金先物価格で換算し貴金属の単位であるトロイオンス(オンス)を通貨単位として各種の資産価値の推移を見ると、米ドルの価値は2015年後半から下落傾向にあることがわかる。
また、ダウ平均株価は、今年の2月に過去最高値を付けたが、オンス単位では2018年9月に史上最高値を付けた後で下落傾向にある。更に、FRBのバランスシート額も今年6月に過去最大額を記録したが、オンス単位で見れば2015年11月に記録した金額をまだ上回っていない。現在の各種の資産価格上昇は米ドルの価値低下に支えられている面もあろう。
【無国籍通貨の金から見た資産価値~FRBバランスシートとダウ平均株価】
■コロナ禍が戸建て住宅に追い風
戸建て分譲住宅を手掛けるオープンハウス(3288)が7/10に発表したプレスリリースによれば、戸建ての仲介契約数は4月に緊急事態宣言下で商談の機会が減少したものの、テレワークの普及や家族そろって自宅で過ごす時間が増えたことから5月以降に伸長に転じた。米国の新築住宅一戸建て販売件数においても都市封鎖された都市部を離れ、在宅勤務向きの広い住宅への需要が増えたことから5月以降に増加に転じており、戸建て住宅への需要は日米共通と見られる。
戸建て住宅を取扱う住宅メーカーや不動産会社の株価を見ると大半の企業が昨年末の終値を下回っている。少子高齢化と人口減少に伴う需要減からのパラダイムシフトの可能性を株価は未だ織り込んでいないと考えられよう。
【コロナ禍が戸建て住宅に追い風~日米ともテレワークの普及が後押し】
■アセアン株式ウィークリー・ストラテジー
(8/3号「タイとシンガポールの近況」)
タイ政府は7/22、新型コロナウイルス対策として発令している非常事態宣言が今月末に期限を迎えるのを前に、8月末まで1ヵ月延長する方針を決めた。3/26に出された非常事態宣言の延長は4度目である。その一方、政府の観光業刺激策「We travel together」(タイ版Go To トラベルキャンペーン)の参加登録を7/15に開始。宿泊費や航空券代の4割(上限あり)をタイ政府が負担する。
また、シンガポールではデング熱の死者が過去最高の年間25人を超える勢いで大流行。コロナ禍への対策で多くの人が在宅勤務となった結果、蚊に刺される機会が増えたり、作業が休止した建設現場に水たまりができて蚊が繁殖した可能性がある。最近のシンガポールST指数の推移が他のアセアン3ヵ国の株価指数と比べて相対的に低調であることの要因となっている面もあろう。
- 上場有価証券等のお取引の手数料は、国内株式の場合は約定代金に対して上限1.265%(消費税込)(ただし、最低手数料2,200円(消費税込)、外国取引の場合は円換算後の現地約定代金(円換算後の現地約定代金とは、現地における約定代金を当社が定める適用為替レートにより円に換算した金額をいいます。)の最大1.10%(消費税込)(ただし、対面販売の場合、3,300円に満たない場合は3,300円、コールセンターの場合、1,980円に満たない場合は1,980円)となります。
- 上場有価証券等は、株式相場、金利水準等の変動による市場リスク、発行者等の業務や財産の状況等に変化が生じた場合の信用リスク、外国証券である場合には為替変動リスク等により損失が生じるおそれがあります。また新株予約権等が付された金融商品については、これらの権利を行使できる期間の制限等があります。
- 国内金融商品取引所もしくは店頭市場への上場が行われず、また国内において公募、売出しが行われていない外国株式等については、我が国の金融商品取引法に基づいた発行者による企業内容の開示は行われていません。
- 金融商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、お取引に際しては、当該商品等の契約締結前交付書面や目論見書又はお客様向け資料をよくお読みください。
免責事項
- この資料は、フィリップ証券株式会社(以下、「フィリップ証券」といいます。)が作成したものです。
- 実際の投資にあたっては、お客様ご自身の責任と判断においてお願いいたします。
- この資料に記載する情報は、フィリップ証券の内部で作成したか、フィリップ証券が正確且つ信頼しうると判断した情報源から入手しておりますが、その正確性又は完全性を保証したものではありません。当該情報は作成時点のものであり、市場の環境やその他の状況によって予告なく変更することがあります。この資料に記載する内容は将来の運用成果等を保証もしくは示唆するものではありません。
- この資料を入手された方は、フィリップ証券の事前の同意なく、全体または一部を複製したり、他に配布したりしないようお願いいたします。
アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。