【投資戦略ウィークリー 2020年6月29日号(2020年6月26日作成)】”電電ファミリー復活は日本株復活への号砲か?”
■”電電ファミリー復活は日本株復活への号砲か?”
- 6/25、NTT(9432)がNEC(6701)に77%を出資し、次世代の通信インフラの共同開発で提携すると発表。NECは、NTTの前身である電電公社の近しい企業を指す「電電ファミリー」の主要企業であり、NECのほか当時の電話交換機主要メーカーだった富士通(6702)、沖電気工業(6703)が御三家と呼ばれ、日立製作所(6501)も主要な構成員だった。これらの構成員は電電公社が大量に調達する機器を独占して納入していたことから、日米構造協議や日米包括経済協議などで不公正な「keiretu(系列)」取引として槍玉に挙げられ、通信自由化の流れの中で価格や性能などで国際競争力を次第に失っていった経緯があった。
- 電電ファミリー復活の要因としては以下の2点が挙げられる。まず、米中対立激化を背景に、米国では中国勢などに通信機器を通じて機密情報を抜き取られることを警戒する「通信安保」が重要となってきたことから、特に年2兆円規模の研究開発費を使う中国の通信機器大手のファーウエイに対抗できるだけの国際競争力のある勢力が求められている点である。
- 次に、時価総額で見れば、米国企業ではアップルやマイクロソフト、アマゾン・ドット・コムが1兆ドルを超え、中国企業もアリババ・グループが約6千億ドルに達するのに対し、日本企業はNTTが約10兆円、NECが約3兆円に過ぎず、1社で国際競争に勝ち抜くには規模が違い過ぎる点である。既にNTTは3月にトヨタ自動車(7203)とも資本業務提携を行っており、電電ファミリーを中心に「日本連合」がスケールアップするのではないだろうか。モノのデータが瞬時にデジタル空間で繋がるIoTと5Gの時代は、企業や業種の垣根を超えて世界中の生産や物流・販売に係るデータが産業プラットフォームのデジタル空間に収集・解析され、新たな技術やノウハウが生まれる可能性が広がる時代であり、電電ファミリーの「keiretu」がデジタル時代に再評価されよう。構成企業は日本連合プラットフォームの重要な役割を担うのではないだろうか。
- 6/30-7/3の日本株市場は、主に海外市場におけるヘッジファンドの中間決算や年金リバランスなど1-12月の半期の締めが意識されやすい週となろう。3月末比では株式が国内外とも値上がりし、米国10年債利回りが同水準で推移していることから、年金のリバランスは株式売り・債券買いに傾きやすいことが考えられる。米国休場日を7/3に控え、国内外で7/1-2に重要な経済指標の発表が重なることから月末・月初の相場乱高下の可能性に要注意だろう。
- 6/29号では、Zホールディングス(4689)、日機装(6376)、沖電気工業(6703)、ゼンリン(9474)、ペトロナス・ガス(PTG)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 6月29日(月):DCMホールディングス、J.フロントリテイリング、ケーヨー、しまむら、ストライク、ナガイレーベン、象印マホービン、マイクロン・テクノロジー
- 6月30日(火): アダストリア、アルテック、ウェザーニューズ、クロス・マーケティンググループ、サンデンホールディングス、ジャパンディスプレイ、スター・マイカ・ホールディングス、ダイセキ、タカキュー、パイプドHD、マルマエ、三陽商会、フェデックス、コナグラ・ブランズ
- 7月1日(水):ゼネラル・ミルズ、コンステレーション・ブランズ
- 7月2日(木):クスリのアオキホールディングス、TSIホールディングス、キユーソー流通システム、キユーピー、大阪有機化学工業
- 7月3日(金):アークス、エスプール、クラウディアホールディングス、ネクステージ、マルカキカイ、ミタチ産業、ワキタ、日本BS放送、北恵
■主要イベントの予定
- 6月29日(月)
・エブレンが東証ジャスダックに新規上場
・小売売上高 (5月)、百貨店・スーパー売上高(5月)
・米サンフランシスコ連銀総裁はパネル討論に参加、米ニューヨーク連銀総裁がIMF専務理事とのディスカッションで司会役
・米中古住宅販売成約指数 (5月)
・ユーロ圏景況感指数 (6月)、ユーロ圏消費者信頼感指数 (6月)、独CPI (6月)
- 6月30日(火)
・グッドパッチが東証マザーズに新規上場
・有効求人倍率 (5月)、完全失業率 (5月)、鉱工業生産(5月)、自動車生産台数(4月)、住宅着工戸数 (5月)、建設工事受注(5月)
・米財務長官とFRB議長が下院金融委員会で証言(新型コロナ対応で)、米ニューヨーク連銀総裁が講演(オンライン)
・米主要20都市住宅価格指数 (4月)、消費者信頼感指数 (6月)
・ユーロ圏CPI (6月)、 英GDP (1Q)
・中国製造業・非製造業PMI (6月)、南アGDP (1Q)
- 7月1日(水)
・日銀短観(2Q)、
・貸出先別貸出金法人(5月)、じぶん銀行日本PMI製造業 (6月)、自動車販売台数 (6月)、消費者態度指数 (6月)
・米FOMC議事要旨 (6月9、10日開催分)、シカゴ連銀総裁がオンラインフォーラム
・ドイツが欧州連合(EU)議長国に就任、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)発効、ロシアで憲法改正問う国民投票
・香港市場は香港返還記念日の祝日のため休場
・米自動車販売 (6月)、ADP雇用統計 (6月)、ISM製造業景況指数 (6月)、建設支出 (5月)
・ユーロ圏製造業PMI (6月)、 独失業率 (6月)、
・中国財新製造業PMI (6月)
- 7月2日(木)
・対外・対内証券投資(6月21-27日)、マネタリーベース月末残高 (6月)
・米債券市場が短縮取引
・米雇用統計 (6月)、 新規失業保険申請件数 (6月27日終了週)、貿易収支 (5月)、米製造業受注 (5月)
・ユーロ圏PPI (5月)、ユーロ圏失業率 (5月)
- 7月3日(金)
・じぶん銀行日本PMIサービス業・コンポジット (6月)、日銀の需給ギャップと潜在成長率
・米市場は独立記念日の振替え休日で休場
・ユーロ圏総合PMI (6月)、ユーロ圏サービス業PMI (6月)
・中国財新サービス業PMI・コンポジットPMI (6月)
- 7月5日(日)
・東京都知事選の投開票
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■全米および人口上位3州の第2波
米国で新型コロナウイルス感染が再拡大しており、6/23の新規感染者数は4/24の過去最多36,188人に迫る34,953人に達した。全米人口上位3州のカリフォルニア州が6/23に6,712人、テキサス州が6/23に5,195人、フロリダ州が6/24に5,511人と各々過去最多を更新。6/24、ニューヨーク州など3州の知事はウイルス感染率が高い州から訪れる人に14日間の自主隔離を義務付けると発表した。
他方、感染に伴う新規死亡者数は全米が4/29の2,612人から減少し、全米人口上位3州についても7日移動平均では4月下旬以降から横ばい、または減速傾向と見られる。白人警官の暴行により黒人男性が死亡した事件への抗議デモへの参加により、重症化しにくい若年層を中心に感染が拡大した面もあるだろう。
【全米および人口上位3州の第2波~COVID-19新規死亡者数は落ち着きを保つ】
■米国上場の主な中国企業ADR株価
中国企業のADRのうち、大手EコマースのJDドットコム(JD)、ネットサービスの網易(NTES)、ネット検索サイトの百度(BIDU)、オンライン旅行代理店の携程旅行網(TCOM)はナスダック上場銘柄であり、ナスダック100指数の構成銘柄でもある。年初来騰落率ではJDドットコムと網易がNYSE FANGプラス指数およびナスダック総合指数を上回って推移している。
米中対立が激化する中、米国で厳しい視線にさらされる中国企業は上場廃止などのリスクを回避すべく香港回帰を志向しており、6/11に網易が、6/18にJDドットコムが香港証券取引所に上場した。百度もナスダックから撤退して中国に近い市場に上場先を変更することを検討中と伝えられている。大型銘柄の上場により香港株の取引活発化が見込まれよう。
【米国上場の主な中国企業ADR株価~年初来ではJDドットコムが堅調】
■英半導体IP企業Armが影の主役
6/22に実施されたアップル(AAPL)の開発者向けイベント(WWDC20)で、パソコンのMacのプロセッサーを米インテル製からソフトバンクグループ(9984)傘下の英Arm(アーム)アーキテクチャーを基に自社開発した「Apple Silicon」に移行すると発表された。ArmチップはiPhoneを含む世界のほぼすべてのスマートフォンに採用されており、アップルの製品群はArmチップに一本化される模様だ。
同日の6/22、理研と富士通(6702)が共同開発し、Armアーキテクチャーを採用したスーパーコンピュータの「富岳」が高性能計算の国際会議「ISC2020」で世界ランキングで首位を獲得した。ソフトバンクグループのアーム事業は2020年1-3月決算で利益悪化が伝えられたが、潜在可能性の高さを示したものと言えよう。
【英半導体IP企業Armが陰の主役~ユニークなビジネスモデルと戦略】
■アセアン株式ウィークリー・ストラテジー
(6/29号「2020年1-3月期決算動向」)
アセアン4ヵ国の2020年1-3月期決算は、マレーシアでは政府の活動制限令より四半期決算の提出期限が6/30に延長された。ただ、エアアジア・グループ(AAGB)のように提出期限の更なる1ヵ月延長を申請する例も見られる。また、2020年1-3月期のEBITDAや純利益が前年同期比で増益となっている企業または業種として、①相対的に高金利のインドネシアやマレーシアの銀行グループ、②金融市場の変動性上昇を追い風としたシンガポール取引所(SGX)、③コロナ禍で消費者向けの家庭用品や食料品の需要に支えられたインドフード・サクセス・マクムール(INDF)やユニリーバ・インドネシア(UNVR)、④中国のアフリカ豚熱の影響が残るなか豚肉価格の高止まりと飼料価格の低下の恩恵により利益率が上昇したチャルーン・ポーカパン・フーズ(CPF)などが挙げられよう。
- 上場有価証券等のお取引の手数料は、国内株式の場合は約定代金に対して上限1.265%(消費税込)(ただし、最低手数料2,200円(消費税込)、外国取引の場合は円換算後の現地約定代金(円換算後の現地約定代金とは、現地における約定代金を当社が定める適用為替レートにより円に換算した金額をいいます。)の最大1.10%(消費税込)(ただし、対面販売の場合、3,300円に満たない場合は3,300円、コールセンターの場合、1,980円に満たない場合は1,980円)となります。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。