【投資戦略ウィークリー 2020年5月25日号(2020年5月22日作成)】”「PBR革命」と低PBR銘柄からの脱却”
■「PBR革命」と低PBR銘柄からの脱却
- 5/19の日経平均株価終値は前日比299円高の20,433円となり、加重平均PBR(株価純資産倍率)が0倍まで上昇した。加重平均PBRは3/16に0.82倍まで倍率が低下した後、約2ヶ月で純資産価格まで回復したことになる。今まで新型コロナウイルス感染が拡大する中で日経平均株価が売られ過ぎの割安な水準と見なされるファンダメンタルズ面の根拠が加重平均PBRの1.0倍にあったことから、目先は目標達成感が出やすい水準と言えるかも知れない。
- その一方、投資家に最も人気がある投資尺度である今期予想PER(株価収益率)は、日経平均株価終値の加重平均で5/13に2013/4以来の20倍超えとなった後も上昇し続け、5/21には約40倍となった。新型コロナウイルスの影響が不透明なために業績予想を非公表とする企業が相次ぎ、業績予想を発表した場合も減益予想が目立つなか、投資家にとって予想PERを投資尺度とすることが難しくなってきている。そのため、一般的には赤字転落とならない限り減益であっても純資産が増加するという確実性が注目され、実績PBRに基づいた投資に頼らざるを得ない状況が続くことが考えられよう。その意味では、「PBR革命」と言うべき、0倍を大きく割り込む低PBR銘柄の水準訂正が発生しやすい環境が整いつつあると言えるだろう。
- ただし、単に低PBRであれば良いというわけではない。先ず、資産および株主から預かった資本を有効に活用できていないことが割安に放置される要因となりやすいことから、資産効率を高めるための株主還元策のほか、事業の選択と集中、不採算事業からの撤退といった事業構造改革が行われていることが重要だろう。次に、多くの上場企業が業績見通しを非公表とする中、減益であっても会社見通しを開示している企業は純資産の持続的な増加を見通しやすく、株価と1株当たり純資産価格の乖離の拡大により割安感が高まることから投資の対象となりやすい面があるだろう。
- なお、新型コロナウイルス感染に伴う「巣ごもり消費」の長期化により、インターネット通販の拡大が段ボール需要を高める動きが段ボール生産量拡大に繋がる動きが見られる。更に、マスクの材料となる不織布の需要が世界的に増加している。経済活動再開に伴い、病院や駅、空港、商業施設などでロボットを通じて安全に感染防止のために消毒剤で清掃すること、および飲食店で対面する席の間にアクリル板を設置することも必要となってきている。製紙・化学メーカーの中から、これらの需要を業績の追い風とすることで低PBR状態を解消する銘柄が出てきても不思議ではないだろう。
- 5/25号では、トーモク(3946)、三井化学(4183)、日本製鉄(5401)、CYBERDYNE(7779)、ケッペル(KEP)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 5月25日(月):THK、エイチ・ツー・オーリテイリング、ベネッセHDS、王子HDS、清水建設、日本製鋼所、日本特殊陶業、日本発条、日本郵船、日立化成、味の素、名古屋鉄道
- 5月26日(火): いすゞ自動車、コニカミノルタ、スズキ、ヤマハ、出光興産、西武HDS、日本空港ビルデング、キーサイト・テクノロジーズ、オートゾーン
- 5月27日(水):日立金属、電通グループ、三菱マテリアル、リクルートHDS、三菱マテリアル、ダイセル、ネットアップ、HP、オートデスク、ラルフローレン
- 5月28日(木):DMG森精機、エア・ウォーター、ニコン、ヒロセ電機、フジクラ、丸井グループ、住友重機械工業、小糸製作所、大塚HDS、東レ、日産自動車、日立建機、アルタ・ビューティ、セールスフォース・ドットコム、ノードストローム、コストコホールセール、DXCテクノロジー、PVH、ダラー・ゼネラル、ダラー・ツリー
- 5月29日(金): LIXILグループ、オリンパス、グローリー、ヤマハ発動機、戸田建設、三井金属鉱業、住友林業、東洋製罐グループHDS、日立キャピタル、日立製作所、富士電機
■主要イベントの予定
- 5月25日(月)
・景気先行CI指数 ・景気一致指数 (3月)
・米休場(メモリアルデー)、英休場(バンクホリデー)
・独GDP (1Q)・独IFO企業景況感指数 (5月)
- 5月26日(火)
・企業向けサービス価 格指数 (4月)、 全産業活動指数(3月)、工作 機械受注(4月)
・米ミネアポリス連銀総裁がバーチャル討論会に参加
・米主要20都市住宅価格指数 (3月)、FHFA住宅価格指 数 (3月)、新築住宅販売件数 (4月)、消費者信頼感指数 (5月)
・シンガポールGDP (1Q)
- 5月27日(水)
・日産、ルノー、三菱自の 3社連合が共同会見、アライアンスの取り組みを報告
・米セントルイ ス連銀総裁がバーチャル会議に参加、米地区連銀報告(ベージュブック)、米スペースXが有人宇宙船打ち上げ(フロリダ州ケネディ宇宙センター)
・中国工業利益 (4月)
- 5月28日(木)
・対外・対内証券投資 (5 月17-23日)
・米 ニューヨーク連銀総裁がバーチャル討論会に参加
・韓国中銀が政策金利発表、台湾GDP (1Q)
・米GDP (1Q)、新規失業保険申請件数 (23日終了週)、耐久財受 注 (4月)、中古住宅販売成約指数 (4月)
・ユーロ圏景況感 指数 (5月)、消費者信頼感指数 (5月)、独CPI (5月)
- 5月29日(金)
・日銀、当面の長期国債等の買い入れについて
・東京CPI (5月)、完全失業率・有効求人倍率 (4月)、鉱工業生産(4 月)、小売売上高(4 月)、百貨店・スーパー売上高(4月)、自動車生産台数 (3月)、消費者態度指数 (5月)
・米個人所得・支出 (4月)、卸売 在庫 (4月)、ミシガン大学消費者マインド指数 (5月)
・ユーロ圏マネーサプライ (4月)、ユーロ圏CPI (5月)、仏GDP (1Q)
・ブラジルGDP (1Q)、インドGDP (1Q)
- 5月31日(日)
・中国製造業・非製造業・コンポジットPMI(5月)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■米国株で相対的に堅調な銘柄
米国S&P500株価指数は史上最高値を付けた2/19の終値に対し5/20終値が約88%となるなか、S&P500およびナスダック100構成銘柄の内、36銘柄の5/20終値が2/19終値を10%以上上回った。
業種で分類すれば①「Eコマース・一般消費財」「アプリケーション・ソフトウエア」「インターネット・メディア」「インフラ・ソフトウエア」「半導体素子」「消費者金融(フィンテック)」「情報サービス」といったIT関連が17社、②「バイオテクノロジー」「医療機器」「医療設備」「生命科学・設備」といったヘルスケア関連が8社、③「加工食品」「家庭用小売業」「家庭用品製造」「大規模小売店」「レストラン」といった生活消費関連が6社である。これらは新型コロナウイルスの影響下で、相対的に強さを発揮しやすい面があろう。
【米国株で相対的に堅調な銘柄~5/20終値が2/19を10%以上上回った36銘柄】
■アセアン4ヵ国の外国為替相場
年初からのアセアン4ヵ国の対円為替相場を2019/12末の終値を100とした相対指数で見た場合、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて4ヵ国とも2月下旬以降に下落した。その中で、経常赤字国であるインドネシア通貨の下落率が相対的に大きかったが、年初来安値を付けた4/1から5/20までの上昇率が13%に達し、年初から5/20までの下落率が他の3ヵ国の通貨とほぼ同水準まで回復した。
インドネシアルピア下落に歯止めがかかった要因として、3/31に米FRB(連邦準備理事会)が外国の中央銀行に米ドルの流動性を供給する暫定的なレポファシリティの開設を表明したことのほか、インドネシアが石油純輸入国であるため原油価格急落が経常赤字減少に寄与すると見込まれることが挙げられよう。
【アセアン4ヵ国の外国為替相場~インドネシアルピアの反転上昇に注目】
■鉄鋼株と海運株の対TOPIX比較
新型コロナウイルスの影響が不透明な中、会社業績予想を非開示とする企業の増加および利益見通しの急速な悪化に伴い、投資の尺度として予想PER(株価収益率)よりも実績PBR(株価純資産倍率)に注目する投資家が増えている。
PBR1.0倍を下回る低PBR銘柄が多い東証1部においても海運株と鉄鋼株は、①2007/6(日経平均株価が2001年以降リーマンショックまでの最高値を付けた月)からの下落率が大きいこと、②海運業界では大手3社がコンテナ船事業を統合し、鉄鋼業界では「原料市況高・鋼材市況安」に対応するための大規模な事業構造改革を新型コロナウイルス感染の前から進めていたことから、相対的に優位性があろう。5/14から5/20まで上昇中のバルチック海運指数も要注目だろう。
【海運株と鉄鋼株の対TOPIX比較~強まる割安感は買い材料となるのか?】
■アセアン株式ウィークリー・ストラテジー(5/25号「新型コロナウイルス感染対策」)
タイの医療ツーリズムを担い医療サービスの質に世界的にも評価が高いバンコク・ドゥシット・メディカル・サービス(BDMS)では、新型コロナウイルス感染から医者・スタッフ・患者を守るため以下の対策を講じている。①急性呼吸器感染症(ARI)と非ARIのエリア構築による病院内の隔離場所の特定、②PCR検査および迅速検査、③スマホアプリを通じたリアルタイムでの医師相談、④血液検査・ワクチン摂取・投薬のための医師の自宅への出張、⑤医療スタッフが遠隔で検査を実施するため、カメラおよびマイクロフォン装備のロボットが患者に接触、⑥患者自身が医療検査を行うための携帯デバイスの提供、⑦陽性患者に対し医療ツーリズムのリゾート施設として利用している宿泊部屋を自宅隔離の代替場所として提供することなどである。日本でも参考とすべき点があるだろう。
- 上場有価証券等のお取引の手数料は、国内株式の場合は約定代金に対して上限1.265%(消費税込)(ただし、最低手数料2,200円(消費税込)、外国取引の場合は円換算後の現地約定代金(円換算後の現地約定代金とは、現地における約定代金を当社が定める適用為替レートにより円に換算した金額をいいます。)の最大1.10%(消費税込)(ただし、対面販売の場合、3,300円に満たない場合は3,300円、コールセンターの場合、1,980円に満たない場合は1,980円)となります。
- 上場有価証券等は、株式相場、金利水準等の変動による市場リスク、発行者等の業務や財産の状況等に変化が生じた場合の信用リスク、外国証券である場合には為替変動リスク等により損失が生じるおそれがあります。また新株予約権等が付された金融商品については、これらの権利を行使できる期間の制限等があります。
- 国内金融商品取引所もしくは店頭市場への上場が行われず、また国内において公募、売出しが行われていない外国株式等については、我が国の金融商品取引法に基づいた発行者による企業内容の開示は行われていません。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。