【投資戦略ウィークリー 2020年5月18日号(2020年5月15日作成)】”日本株の見直しと新しい生活様式”
■日本株の見直しと新しい生活様式
- 5/14に政府は緊急事態宣言を39県で解除すると決定した。外国の主要メディアは日本の対応について「理由は不明だが比較的成功した」、「経済の再開に向けて大きなステップ」など好意的に報じており、海外投資家から見た日本株への投資のハードルがやや下がった面があるのではないか。更に、政府が5/27にも第2次補正予算案を閣議決定すると伝えられ、既に支給が始まっている「持続化給付金」や「特別定額給付金」に加え、中堅・大企業への資本支援、雇用調整助成金の拡充、テナントの家賃支援、および学生の救済などの支援策を繰り出していくことが想定される。
- 国民生活および日本経済の未曽有の危機に対し、財政規律の観点から「ばら撒き」を批判する声は上がらず、国民的危機感の共有を下に「何でもやる」、「大規模にやる」、「迅速に支給する」といったムードが広まっているのではないだろうか。かつて1985年のプラザ合意後の円高不況において、同様に日本経済の沈没への危機感を背景に強力な政策対応がとられたことが、その後の株式市場をバブル相場へと導いた要因となった。当時と現在では環境が異なるが、危機感の国民的共有の深まりに強力な政策対応が伴うことにより、バブル相場が発生しやすい面もあるだろう。
- また、新型コロナウイルス感染拡大の責任の所在を巡る米中対立が再燃する様相を呈するなか、米トランプ政権の意向を反映して米国の連邦職員向けの年金基金を運用する連邦退職貯蓄投資理事会が5/13に中国株への投資を延期すると発表した。グローバル投資資金は中国株投資の代替先として、中国以外でアジアのリーダーとなり得る国を選択する可能性が高いだろう。その点からも日本株に目が向きやすい環境が整い始めていると言えよう。
- 5/4に厚生労働省が公表した「新しい生活様式」では一人一人の基本的感染対策として、身体的距離の確保、マスクの着用、手洗いの励行が実践例として示され、5/14には産業界で新型コロナウイルス感染防止のガイドラインが業界ごとにまとめられた。その中には、顧客がスーパーでパンを自分から取り分けるやり方からパックや袋詰め販売への変更が奨められ、外食では席同士を仕切るアクリル板の設置が推奨されるなど、従来は環境破壊の観点から否定的に見られていた化石燃料の石油を原料とする製品の利用が望ましいとされている。「新しい生活様式」の普及により、今まで時代に取り残されているとして割安に放置されていた低PBR銘柄への見直し買いが進む可能性もあるのではないだろうか。
- 5/18号では、蛇の目ミシン工業(6445)、東光高岳(6617)、マネックスグループ(8698)、大和証券リビング投資法人(8986)、デジ・ドット・コム(DIGI)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 5月18日(月):AGC、SUBARU、ソフトバンクグループ、テルモ、ニフコ、パナソニック、栗田工業、住友ゴム工業、住友ベークライト、小松製作所、中部電力、日本ユニシス、日本碍子
- 5月19日(火):古河電気工業、サンゲツ、日本化薬、日揮HDS、三菱自動車工業、シャープ、ウォルマート、ホーム・デポ、アドバンス・オート・パーツ、コールズ
- 5月20日(水):JXTGHDS、MS&ADインシュアランスグループHDS、SOMPOHDS、アズビル、アマダ、オートバックスセブン、バンダイナムコHDS、光通信、太平洋セメント、大日本印刷、島津製作所、東急不動産HDS、東京センチュリー、東京海上HDS、日本水産、堀場製作所、テイクツー・インタラクティブ・ソフトウエア、エクスペディア・グループ、シノプシス、アナログ・デバイセズ、ロウズ、マケッソン、ターゲット
- 5月21日(木):オリックス、コスモエネルギーHDS、すかいらーくHDS、マキタ、リゾートトラスト、日本精工、富士電機、インテュイット、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ、ロス・ストアーズ、アジレント・テクノロジー、エヌビディア、メドトロニック、ホーメルフーズ、TJX
- 5月22日(金):アシックス、カシオ計算機、コロワイド、ニッコンHDS、リログループ、奥村組、横浜ゴム、科研製薬、三菱UFJリース、住友大阪セメント、前田建設工業、東急、博報堂DYHDS、富士フイルムHDS、明治HDS、ディア
■主要イベントの予定
- 5月18日(月)
・GDP(1Q)、第3次産業活動指数(3月)
・米NAHB住宅市場指数(5月)
・中国新築住宅価格(4月)、タイGDP(1Q)
- 5月19日(火)
・ソニー経営方針説明会、吉田社長が出席
・鉱工業生産(3月)、設備稼働率(3月)
・ムニューシン米財務長官とパウエルFRB議長が上院銀行委員会で証言、米ボストン連銀総裁がオンライン討論会に参加
・EU財務相理事会
・インドネシア中銀が政策金利発表
・米住宅着工件数 (4月)
・欧州新車販売台数 (4月)、独ZEW期待指数 (5月)、英ILO失業率 (1 -3月)、露GDP (1Q)
- 5月20日(水)
・ソフトバンク法人事業説明会
・コア機械受注(3月)、個人向け貸出金・住宅資金(1Q)、東京販売用マンション(4月)、コンビニエンスストア売上高 (4月)、訪日外客数(4月)
・米FOMC議事要旨 (4月28、29日開催分)、米セントルイス連銀総裁がオンライン討論
・台湾総統就任、タイ中銀が政策金利発表
・ユーロ圏CPI(4月)、ユーロ圏消費者信頼感指数(5月)、英CPI(4月)
- 5月21日(木)
・貿易収支(4月)、対外・対内証券投資(5月10-16日)
・パウエルFRB議長が新型コロナウイルスの経済的影響を巡るFRBのイベントで開会のあいさつ、米ニューヨーク連銀総裁がオンラインセミナーのディスカッションに参加
・トルコ中銀が政策金利発表、南ア中銀が政策金利発表
・米新規失業保険申請件数 (5月16日 終了週)、米中古住宅販売件数(4月)、米景気先行指標総合指数(4月)
- 5月22日(金)
・全国CPI(4月)、全国百貨店売上高(4月)、東京地区百貨店売上高(4月)
・中国全人代が開幕、アジア開発銀行年次総会-2段階に分けたうちの最初の部分
・アルゼンチンの債務再編案に関する期限
・米債券市場が短縮取引
・ユーロ圏総合・製造業・サービス業PMI(5月)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■米国株と日本株の株価指数比較
米国S&P500株価指数と日本の東証株価指数(TOPIX)について、①S&P500株価指数をTOPIXで割った倍率、および②S&P500構成銘柄の加重平均PBR(株価純資産倍率)をTOPIX構成銘柄の加重平均PBRで割った倍率の2008/5からの推移を見ると、米国企業が日本企業より成長性が高いことを反映して①および②とも長期的に上昇傾向が示されている。
ただし、これは2008年のリーマンショック後、一貫してグローバル経済が拡大していたことが背景にあると考えられる。新型コロナウイルスによって経済活動が停滞するなか、企業収益の成長性から純資産価値の割安さへと投資の注目点がシフトする可能性があり、①および②の倍率縮小を通じ米国株に対する日本株の割安さが見直される可能性もあろう。
【米国株と日本株の株価指数比較~高PBRの米国株と低PBRの日本株】
■ビットコインの半減期
5/12に約4年ぶりにビットコインのマイニング報酬の半減期が到来した。半減期とはマイニングによって新規に発行される暗号資産の量を半減させていく仕組みのことであり、発行量の引き締めにより資産価値の希薄化を防止する狙いがある。半減期は、厳密にはビットコインの発行量が21万ブロックごとに訪れるよう設計されており、1ブロック当り約10分で形成されることから、計算上約4年毎に訪れることとなる。
過去には①2012/11/28、②2016/7/9に半減期が到来し、その前にビットコイン価格が大きく値上がりしたことがあった。今回もビットコイン価格終値が3/16の4,904USDから5/8の9,998USDまで上昇した。資産価値維持を目的とした半減期の仕組みが機能するか注目されよう。
【ビットコインの半減期~マイニング報酬半減で資産価値の希薄化防止】
■長期の日経平均株価PBRとPER
日経平均株価の予想PER(株価収益率)は、2020/3通期決算や2021/3期の業績見通しの悪化を受けて5/13に23.74倍まで上昇。20倍超えは2013/4以来であり、利益面からは株価の割高感が指摘される一方、日経平均株価の5/13終値の加重平均PBRは0.97倍と割安である。
新型コロナウイルスの影響に対する経済対策として持続化給付金や特別定額給付金のほか、現在、第二次補正予算で様々な支援策が検討されている。日銀のETF年間買い入れ目標額の増額といった追加金融緩和と併せ、加重平均PBRを引き上げる要因となり得よう。加重平均PBRは2018/1に1.39倍、2018/10に1.29倍まで上昇しており、思い切った支援策が迅速に実行されれば現在の水準よりも上昇する可能性が見込まれよう。
【長期の日経平均株価PBRとPER~低PBRの水準訂正が株価下支えか?】
■アセアン株式ウィークリー・ストラテジー
(5/18号「新型コロナウイルスとの闘い」)
マレーシアでは、外国人を中心に連日2桁の新型コロナウイルス感染者が発生していることへの対応策として、州を跨いだ移動などを原則禁止する活動制限令の期限を6/9まで延長することが5/10に発表された。他方、5/4からは大半の経済活動の再開が認められており、5/10時点で約44%の労働者が職場に復帰した。シンガポールでは、6/1の経済再開に向け、外国人出稼ぎ労働者の寮で30万人超の居住者全員に抗体検査とPCR検査を組み合わせた検査を実施し、未感染で健康な人が仕事を再開できるようにすると5/12に発表された。タイでは、5/13に新型コロナウイルスの新たな感染者が3/9以来のゼロとなったことを受け、5/3の緩和第1弾に続き、商業施設の営業などを禁じる経済活動の制限について5/17にも第2弾となる緩和を実施する方針と伝えられた。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。