【投資戦略ウィークリー 2020年5月11日号(2020年5月8日作成)】”持続化給付金と特別定額給付金の経済効果”
■持続化給付金と特別定額給付金の経済効果
- 新型コロナウイルスの影響で前年に比べて売上が急減した中小企業や個人事業主への「持続化給付金」の支給が5/8に始まった。法人は最大200万円、個人事業主は最大100万円を支給するもので、専用ウエブサイトにアクセスして所定の書類が確認されれば事業者の銀行口座に直接振込まれる。政府は、資金繰り難に直結する事業者を支援するため最速で1週間で支給する態勢を整えたとしている。また、政府が国民に一律10万円を支給する「特別定額給付金」のオンライン申請が5/1から自治体ごとに順次開始された。今までの経済対策は金額の大きさの割に国民一人一人に恩恵が実感されにくい傾向があったが、今回の一連の経済対策は、業者を介することなくウエブサイトを通じて国民が直接政府に対して申請し、政府から直接かつ迅速に金額が振り込まれることが想定されている。政府の経済対策の恩恵を国民が肌で実感しやすいものとして画期的な意義を持つと言えるかも知れない。更に、自民・公明両党は、賃貸物件に入居し売上が一定程度減少した中小企業などを対象に家賃の最大3分の2を半年間、国が後から給付金で補てんする支援策について大筋で合意したと伝えられた。これらの経済対策に伴う現金が消費者・生活者の需要に応じて日本経済の中で循環すれば、今まで見られなかったような経済効果が期待できる可能性もあろう。
- 持続化給付金の支給が始まった5/8の日経平均株価は、前日終値比504円高の20,179円で引けた。今までとは違う面が見られる経済対策への期待の表れという面もあろう。経済対策の効果の表れ方次第では日経平均株価の一段高が見込まれよう。5/7の日経平均株価終値の加重平均PBR(株価純資産倍率)が93倍であり、同PBR1.0倍割れが割安圏と見られやすいことも相場の先行きへの強気見通しを後押ししよう。
- 新型コロナウイルス感染拡大を受けて小中学校や高校で休校措置がとられるなか、オンライン授業への移行の取り組みが進められている。しかし、児童・生徒が住む環境によって学習環境に差が生じることが懸念され、その対策として「9月入学」「9月始業」が取り沙汰されるようになってきた。在宅授業の普及にはシンガポールの取組み(3ページ目下段参照)が参考になるものと思われる。また、外出自粛が続くなか、オンライン・ゲームや動画配信サービスの利用が増加している。任天堂(7974)の「あつまれどうぶつの森」のほか日本のアニメが世界的に注目度を増す契機となろう。
- 5/11号では、伊藤忠アドバンス・ロジスティクス投資法人(3493)、オービックビジネスコンサルタント(4733)、東映アニメーション(4816)、ベネッセHDS(9783)、シンガポール・プレス・HDS(SPH)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 5月11日(月):アサヒグループHDS、スズケン、ソフトバンク、ツムラ、ニプロ、ブラザー工業、ブリヂストン、ローム、伊予銀行、塩野義製薬、九州旅客鉄道、群馬銀行、五洋建設、江崎グリコ、三越伊勢丹HDS、三菱重工業、三菱電機、山九、神戸製鋼所、西松建設、西日本鉄道、静岡銀行、千葉銀行、大阪ガス、東海カーボン、東洋紡、日清食品HDS、日本ハム、日野自動車、ホシザキ、
- 5月12日(火):GMOペイメントゲートウェイ、PALTAC、SANKYO、SCREENHDS、TIS、TOYO TIRE、アルフレッサHDS、ウシオ電機、カカクコム、キッコーマン、キッセイ薬品工業、キリンHDS、クボタ、ジーエス・ユアサコーポレーション、ジェイエフイーHDS、シスメックス、シップヘルスケアHDS、セコム、セントラル硝子、ダイキン工業、ダイセル、ダイフク、トヨタ自動車、トレンドマイクロ、ニチレイ、ハウス食品グループ本社、ほくほくフィナンシャルグループ、メイテック、ユー・エス・エス、りそなHDS、ロート製薬、旭化成、横河電機、関西ペイント、関西電力、京浜急行電鉄、広島銀行、国際石油開発帝石、三井不動産、三菱瓦斯化学、資生堂、滋賀銀行、住友電気工業、小野薬品工業、西日本フィナンシャルHDS、川崎重工業、綜合警備保障、太陽誘電、大陽日酸、東ソー、日本電気、不二製油グループ本社、本田技研工業
- 5月13日(水):アリアケジャパン、エーザイ、コカ・コーラ ボトラーズジャパン、コムシスHDS、サンドラッグ、スクウェア・エニックス・HDS、セイノーHDS、ソニー、ソニーフィナンシャルHDS、デンカ、ネクソン、ふくおかフィナンシャルグループ、フジ・メディア・HDS、マツモトキヨシHDS、みらかHDS、めぶきフィナンシャルグループ、レンゴー、宇部興産、荏原製作所、楽天、丸一鋼管、九州フィナンシャルグループ、阪和興業、三井住友建設、三菱ケミカルHDS、新生銀行、雪印メグミルク、大成建設、大日本住友製薬、第一興商、東京応化工業、日本パーカライジング、日本光電工業、日本新薬、日本発条、日油、浜松ホトニクス、武田薬品工業
- 5月14日(木):ADEKA、KDDI、NOK、あおぞら銀行、アコム、アステラス製薬、アルバック、エヌ・ティ・ティ・データ、カネカ、カルビー、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、クラレ、ケーズHDS、ゴールドウイン、コナミHDS、コンコルディア・フィナンシャルグループ、シチズン時計、スルガ銀行、ゼンショーHDS、ディー・エヌ・エー、テレビ朝日HDS、ペプチドリーム、マツダ、マルハニチロ、メディパルHDS、ヤクルト本社、ユニ・チャーム、岩谷産業、京都銀行、協和エクシオ、近鉄グループHDS、阪急阪神HDS、三井化学、三菱地所、三和HDS、鹿島建設、住友不動産、小田急電鉄、上組、森永製菓、森永乳業、前田道路、大正製薬HDS、大和ハウス工業、沢井製薬、中国銀行、長瀬産業、長谷工コーポレーション、東京放送HDS、東邦HDS、日清製粉グループ本社、日本テレビHDS、富士通、宝HDS
- 5月15日(金):DIC、SMC、T&DHDS、TDK、エムスリー、オープンハウス、かんぽ生命保険、クレディセゾン、コロワイド、ダスキン、テイ・エステック、トクヤマ、パーソルHDS、みずほフィナンシャルグループ、ヤマトHDS、ゆうちょ銀行、ワコールHDS、三井住友フィナンシャルグループ、三浦工業、三菱UFJフィナンシャル・グループ、山口フィナンシャルグループ、持田製薬、七十七銀行、住友化学、昭和電工、大同特殊鋼、大林組、大和工業、第四北越フィナンシャルグループ、朝日インテック、東京電力HDS、日産化学、日本M&Aセンター、日本ペイントHDS、日本軽金属HDS、日本製紙、日本郵政
■主要イベントの予定
- 5月11日(月)
・中国経済全体のファイ ナンス規模、新規融資、マネーサプライ (4月、15日までに発表)
- 5月12日(火)
・景気先行CI指数・景気一致指数 (3 月)
・米セントルイス連銀総裁が経済見通しについて講演 (バーチャル会議)、米フィラデルフィア連銀総裁が講演(電話会議)、米クリーブランド連銀総裁がオンラインセ ミナーに参加
・米CPI (4月)、財政収支 (4月)
・中国 CPI・PPI (4月)
- 5月13日(水)
・経常収支・貿易収支(3 月)、銀行貸出動向(4月)・倒産件数(4月)、景気ウォッチャー調査 現状判断・先行き判断(4月)
・NZ中銀が政策金利発表、マレーシアGDP (1Q)、OPEC月報
・米PPI (4月)
・ユーロ圏鉱工業生産 (3月)、英鉱工業生産 (3月)、英GDP (1Q)
- 5月14日(木)
・対外・対内 証券投資 (4月26日―5月9日)、 マネーストックM2・M3 (4月)、工作機械受注 (4月)
・ECB経済報告、イングランド銀行総裁がオンラインセ ミナーで講演、独CPI (4月)
・国際エネルギー機関(IEA)月報
・米新規失業保険申請件数 (9日終了週)、輸入物価指数 (4月)
- 5月15日(金)
・国内企業物価指数 (4月)
・米小売売上高 (4月)、鉱工業生産 (4月)、企業在庫 (3月)、米求人件数 (3月)、ミシガン大学消費者マインド指数 (5月)、対米証券投資 (3月)
・ユーロ圏GDP (1Q)、独GDP (1Q)
・中国工業生産・小売売上高・固定資産投資 (4月)、香港GDP (1Q)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■米フィンテック企業の躍進
米国では新型コロナウイルス対応の景気刺激策の一部である3,500億ドルの中小企業向け融資プログラムに関し、ペイパル(PYPL)、インテュイット(INTU)、スクエア(SQ)のフィンテック企業3社が参加を認められた。これらの会社は、ソフトウエアで中小企業経営者や自営業者が要件を満たすかどうかを判定し、要件を満たせば即座に融資を実行している。
融資業務は銀行が担うべきものと考えられるが、深刻な影響を受ける企業に資金を迅速に届けることが最優先された結果、顧客のデータ分析・処理に長けたフィンテック企業の力が必要とされたと見られる。株価面でもS&P500が史上最高値を付けた2/19の終値を100とした相対指数で見ると、上記の3社は米国主要4大銀行のパフォーマンスを上回っている。
【米フィンテック企業の躍進~米国中小企業向け融資プログラムへの参加承認】
■CMX金先物価格の推移
CMX金先物価格の期近物と期先物の限月間スプレッドの推移を見ると、3/6と比べて4/7は期近安・期先高のスプレッドが縮小したが、4/7と比べて5/6は拡大。これは近い将来、金価格が上昇しやすいという市場参加者の期待の表れと見られる。その一方、投機筋の先物ネット建玉の買越し枚数は2020/2の約35万枚から約26万枚まで減少したが、過去8年間では高水準を維持している。買越し枚数と金価格のピーク・ボトムは概ね一致する傾向が見られることから、需給面では金先物価格が下落しやすい面もあろう。
中央銀行による量的緩和が通貨価値の下落を通じて金価格を押し上げる面、および景気回復期待によるリスク資産への選好が安全資産としての価値を減退させる面の両面の可能性が留意されよう。
【CMX金先物価格の推移~先高感はあるが、建玉状況は買われ過ぎ懸念も】
■オフィス市場とオフィス主体J-REIT
5/1現在、時価総額でJ-REIT首位の日本ビルファンド投資法人(8951)が投資対象とするオフィスビルの賃貸市場は、新型コロナウイルス感染拡大による景気悪化およびテレワーク普及によるオフィス需要縮小が懸念されている。リーマンショック前後の東京都心5区では、空室率が2007/11頃から、賃料単価が2008/8頃から急速に悪化した。オフィスビル解約には通常6ヵ月前に貸主に通知を行う必要があり、オフィスビル系REIT銘柄の分配金減少などの悪影響は、今年の秋以降に顕在化する可能性があろう。
その一方、物流系銘柄は長期の固定賃料契約をテナントと締結していることが多いことに加え、外出自粛が求められるなか、ネット通販の利用増に伴うテナントの需要の高まりが期待されよう。
【オフィス市場と事務所主体J-REIT~リーマンショック時を振り返る】
■アセアン株式ウィークリー・ストラテジー
(5/11号「シンガポールの5G・在宅授業」)
4/30、シンガポール政府は5G通信規格の事業免許をシンガポール・テレコム(ST)、および共同で入札した同国の通信2位スターハブ(STH)と3位のM1の連合の2社・連合に交付すると発表した。M1は政府系複合企業のケッペル(KEP)と新聞大手のシンガポール・プレス・HDS(SPH)による共同出資会社の完全子会社化であり、実質的にはケッペルの傘下企業と位置付けられている。
外出規制に伴う在宅授業が続くなか、シンガポールの公立小中学校では宿題や自習のため国営オンライン学習用ポータルサイトが利用されている。蓄積されている推奨教材を使い、教師が自分のクラスに合った学習プログラムを組む。パソコンや高速回線の無い家庭に政府が学校を通じて機器を無料貸与している。日本で在宅授業の普及を目指す場合の先行事例として参考となろう。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。