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【投資戦略ウィークリー 2020年4月27日号(2020年4月24日作成)】”原油安と電力業界の変革に注目”

 

■原油安と電力業界の変革に注目

  •  4/20にWTI原油先物の5月限価格が終値で1バレル▲63ドルの史上初のマイナス価格で引けた。マイナス価格の要因としては以下の2点が重要だろう。①WTI原油先物の最終決済方法は現物受渡しを伴う受渡決済のみであるなか、他の主要な原油の大半が海上や沿海部で受渡しを行えるのに対し、内陸部のオクラホマ州クッシングで貯蔵して受渡しを行うこととなっており海上に受渡し拠点を有さない。そのため、コストをかけて自前で保管・処分するよりも原油の買い手にお金を払って現物を引き取ってもらう方が有利な場合が出てきやすい。②原油の現物受渡しを行うことができない金融商品の原油価格連動ETFが、最終期日前に期近物を売却して期先物にロールオーバー(乗り換え)を行わなければならない点もマイナス価格を増幅した面があろう。WTI原油価格の今後の動向を予測する上では、先物の期近物と期先物との価格の関係が重要である。スポット価格が下落するほど期近安・期先高(コンタンゴ)の角度が急になり、スポット価格が上昇するほどコンタンゴの角度が緩やかになる傾向が多く見られる。2020/3のVIX指数で見られたようにスポット価格が急激に上昇する場合は先物価格の期近高・期先安(バック―デーション)の角度が急になり、スポット価格が下落するに伴い、バックワーデーションの角度が緩やかになる傾向があることが重要だろう。WTI原油先物についてもコンタンゴの角度が緩やかになることに伴い、スポット価格や期近物の価格が上昇しやすい面も出てくるのではないだろうか。
  •  原油安による費用減少の恩恵を受けやすいと見られる電力会社は、2020/4より電気事業者に送配電部門の法的分離が義務付けられた。これにより、再生可能エネルギー事業者などの新規参入企業を含むどの企業も送配電設備を公平に利用できるようにしようという狙いがあり、中立性を維持するため発電・小売りの会社と送配電会社の間の人事や予算についても規制が導入された。今までの電力会社は原発再稼働を再重点課題とし、既に再稼働を果たした関西電力9503九州電力9508四国電力9507が電力業界の勝ち組とみなされてきたが、原発再稼働ができず火力発電に依存せざるを得ないその他の電力会社にとっては原油安の進展が干天の慈雨となる面もあろう。地球温暖化問題の観点からはマイナスの面もあるが、太陽光や風力で発電する再生可能エネルギーの普及を図るために送配電網を増強する投資拡大が必要とされるだろう。そのために電気事業者から分離された送配電会社どうしの再編による企業規模の拡大も期待されよう。
  • 4/27号では、イトーヨーギョー(5287)、日本郵船(9101)、近鉄エクスプレス(9375)、東北電力(9506)、サイム・ダービー(SIME)を取り上げた。

 

■主な企業決算の予定

  • 4月27(月):JSR、アンリツ、イビデン、きんでん、コクヨ、スタンレー電気、ルネサスエレクトロニクス、花王、京セラ、松井証券、積水化学工業、相鉄HDS、第一三共、東海旅客鉄道、日東電工、日立化成、日立金属、日立建機
  • 4月28日(火):ANAHDSLINENTTドコモ、SBIHDS、SCSK、ZOZO、オークマ、オリエンタルランド、キーエンス、シマノ、タダノ、テクノプロHDS、ヒューリック、ポーラ・オルビスHDS、マブチモーター、レーザーテック、九電工、山崎製パン、四国電力、小林製薬、信越化学工業、中国電力、中部電力、東海理化電機製作所、東京瓦斯、東日本旅客鉄道、東邦瓦斯、日本ゼオン、日本通運、日本電気、日本電気硝子、富士通、豊田通商、野村総合研究所、フォード・モーター、スターバックス、アルファベット、モンデリーズ・インターナショナル、メルク3M、ファイザー、UPS、キャタピラー、ペプシコ
  • 4月29日(水): マイクロソフトフェイスブッククアルコムゼネラル・エレクトリックGE)、アメリカン・タワー、ゼネラル・ダイナミクス、ボーイング、マスターカード
  • 4月30日(木):SGHDS、TOTO、ZHDS、アイカ工業、インフォマート、エス・エム・エス、エフピコ、カゴメ、コーセー、ジェイテクト、セイコーエプソン、デンソー、トプコン、トヨタ紡織、ナブテスコ、伊藤忠テクノソリューションズ、京王電鉄、京成電鉄、九州電力、三菱倉庫、商船三井西日本旅客鉄道、双日、村田製作所、大塚商会、電源開発、東京エレクトロン、東京電力HDS、東武鉄道、東北電力、南海電気鉄道、日本たばこ産業、日本航空、日本取引所グループ、日本電産、豊田合成、豊田自動織機、北海道電力、北陸電力、ビザギリアド・サイエンシズ、サザン、Dow.Inc、コムキャスト、クラフト・ハインツ、アップル、マクドナルド、コノコフィリップス、アルトリア・グループ、アマゾン・ドット・コム
  • 5月1日(金):協和キリン、八十二銀行、野村不動産HDS、三井物産、アッヴィ、エクソンモービル、チャーター・コミュニケーションズ、シェブロン、ハネウェルインターナショナル

 

主要イベントの予定

  • 4月27日(月)

日銀金融政策決定会合・終了後に結果と展望リポート発表、黒田総裁会見

・中国工業利益 (3月)

 

  • 4月28日(火)

・エコミックが東証ジャスダックに新規上場

有効求人倍率 (3 )、失業率 (3)

・米FOMC(29日まで)

・米主要20都市住宅価格指 数 (2月)、消費者信頼感指数 (4)

 

  • 4月29日(水)

FOMC声明発表・議長記者会見、米GDP (1Q)、中古住宅販売成約指数 (3)

・ユーロ圏マネーサプライ(3月)、景況感指数 (4月)、消費者信頼感指数(4月)、独CPI(4月)

 

  • 4月30日(木)

日銀、 当面の長期国債等の買い入れについて

小売売上高 (3)、鉱工業生産 (3月)、百貨店・スーパー売上高(3月)、自動車生産台数 (2月)、住宅着工戸数 (3月)、建設工事受注(3月)、消費者態度指数 (4月)

ECBが政策金利発表・ラガルド総裁記者会見

・香港市場、祝日のため休場(51日まで)

・米新規失業保険申請件数 (4 25日終了週)、個人所得 (3)、個人支出 (3)、米雇用コスト指数 (1Q)

・ユーロ圏GDP (1Q)、CPI (4月)、失業率 (3月)、独失業率 (4月)

中国製造業PMI (4)、非製造業PMI (4)

 

  • 5月1日(金)

・東京CPI (4月)、対外・対内証券投資 (4月19-25日)、じぶん銀行日本PMI製造業 (4月)、自動車販売台数 (4月)

・米連邦政府による社会的距離指針が期限切れとなる。実際の経済活動再開時期の判断は各州知事に委ねられる。

中国市場、祝日のため休場(5日まで)

・OPECプラスの減産開始予定

・米自動車販売 (4 月)、ISM製造業景況指数 (4)、建設支出 (3月)

 

(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)

 

※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。

 

■WTI原油先物の期近安・期先高

WTI原油先物(期近物)は4/20に1バレルマイナス37.63ドルの終値を付けたが、4/22の限月間スプレッドでは大幅な期近安・期先高(コンタンゴ)となった。期近物の価格は2/21から4/22にかけて下落する一方、限月間スプレッドのコンタンゴが大幅に拡大。現物受渡決済を伴う商品先物では、在庫保管コストが掛かることからコンタンゴになりやすい面がある。

ただし、期近物の価格がマイナスになるのは異例。これは、在庫キャパシティが足りなくなった生産業者などの売り方がお金を払ってでも引き取って欲しかっただけでなく、現物の受渡ができないWTI連動型のETFが、最終決済日を前に期近物の売却を余儀なくされた面が大きいと考えられよう。WTIだけなくTOCOMの原油先物価格などにも注目すべきだろう。

WTI原油先物の期近安・期先高~買い方ロールオーバーのコストに要注意】

 

■VIX指数先物の期近高・期先安

米S&P500株価指数のオプション価格を基に算出するVIX指数は先物がCBOE(シカゴ・オプション取引所)に上場されており、4/22の限月間スプレッドは期近高・期先安(バックワーデーション)である。ただし、限月間スプレッドのバックワーデーションは3/23から縮小している。

バックワーデーションであれば高価格の期近物から低価格の期先物にロールオーバーする際に利益が発生しやすいと考えられる。しかし、株式投資は一般的に長期のほうが短期よりも価格変動が大きくなりやすいことから、WTI原油先物と同様にコンタンゴの時期の方が相対的に多く、ロールーバーに費用が発生しやすい。VIX指数先物連動ETFでも2018/12から2019/12頃までの価格推移がVIX指数から乖離が見られる点に要注目。

VIX指数先物の期近高・期先安~買い方ロールオーバーは有利なのか?】

 

■原油安メリット銘柄の相対株価推移

原油価格下落によるコスト安の恩恵を受けやすいと見られる主要な銘柄につき、昨年末終値を基準として原油価格が下落傾向である期間における株価の推移を相対指数で見ると、電力株の中でも銘柄毎の跛行色が強いこと、および宅配便を扱う陸運関連が相対的に堅調であることが分かる。電力株は4/1に実施の送配電部門の分社化を含む電力システム改革への対応、および原発稼働状況などが反映している可能性もあろう。また、新型コロナウイルスの影響に伴う医薬品・食品・日用品の供給に直結した運送会社が恩恵を受けやすい面もあろう。

感染者数の増加ペースが落ち着き、経済活動再開への期待が高まれば、海運や空運などの業種の銘柄への原油安メリットの恩恵がより一層注目されよう。

【原油安メリット銘柄の相対株価推移~電力のほか、陸運・海運・空運】

 

アセアン株式ウィークリー・ストラテジー

(4/27号「タイ5G通信の始動」)

タイでは2月に5G向けの電波オークションが実施され、56枠のうちアドバンスト・インフォ・サービス(ADVANC)が最多の23枠、チャロン・ポカパン系のトゥルー・コーポレーションが17枠を獲得。両社はタイ政府が当初目標としていた7月に先駆け、3月に5Gサービスを導入した。タイではまだ5G対応スマホを保有している人は限られているものの、中国のファーウェイやオッポ、および韓国のサムスンの5G対応スマホを利用できる。足元では新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛や3月以降の商業施設や娯楽施設の閉鎖に伴い、「ショッピー」や「ラザダ」といったネット通販、LINEのようなソーシャルメディア、および「ユーチューブ」のような動画サイトなどの利用が急拡大し、1人当たりの平均通信量が急増。高まる通信需要が高速・大容量を特徴とする5G普及の追い風となろう。

 

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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部

笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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