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【投資戦略ウィークリー 2020年4月13日号(2020年4月10日作成)】”売り越し基調の海外投資家の買戻しはあるか?”

 

■売り越し基調の海外投資家の買戻しはあるか?

  •  安倍首相は4/7、新型コロナウイルス感染症対策本部で特別措置法に基づく緊急事態宣言を発令した。欧米では都市封鎖を伴い、罰金付きの外出制限が出されるのが一般的であるなか、日本では都市封鎖は行われず、都道府県知事が強制力を伴わない外出自粛などの要請を行う法的な裏付けを得たにとどまった。日本株市場は日経平均株価の4/8終値が前日比403円高となるなど、経済にマイナスになると見られる緊急事態宣言を好感する動きを示した。この理由としては、緊急事態宣言の実施期間が5/6までと短期間であり、都市封鎖を行わないことから経済的な悪影響が軽微なものにとどまると見られたことが挙げられよう。
  •  欧米並みの厳格な措置を伴わないことに対し感染拡大ペース加速化を懸念する声があるなか、PCR検査数の拡大に伴い国内の感染者数の拡大ペースが加速する傾向が見られる。海外投資家は日本株を4月第1週まで8週連続で売り越しており、2020/3は2014/1以降で最大の月間売り越し額(4兆8,420億円)を記録した。欧米諸国の現状を目の当たりにしている海外投資家が、厳しい措置を取ることを躊躇してきた日本政府の対応に懐疑的な見方を強め売却を加速したことは想像に難くない。その一方、厚生労働省発表のチャーター便帰国者を除く国内死者数は4/9現在で85人にとどまり、欧米諸国と比較しても極めて少数である。今後も同様の傾向が続くならば、売却姿勢を強めている海外投資家が日本株の相対的な投資価値を見直す余地もあり得よう。4月第1週の日経平均株価の裁定取引に係る現物ポジションの売り残は1兆6,045億円と2019/9と同水準にある。2019/9以降、日経平均株価に関し裁定売り残のポジション解消のための買戻しが2020/1まで相場上昇の原動力となった面があったことが思い起こされる。
  •  新型コロナウイルスの治療薬として治験が行われている富士フィルム富山化学のアビガン、およびアビガンの原料として注目度が高まっているデンカ4061のマロン酸ジエチルなど、日本企業が時間をかけて研究・開発していたものが陽の目を見る機会が増えている。ROE(株主資本利益率)を重視する風潮では株主から集めたお金から効率よく収益を上げることが優先され、収益に結びつかない事業は撤退や売却が望ましいと見なされやすい。短期的に収益化が難しい技術・事業であっても将来役に立つ可能性を考慮して残しておくのは古い日本的経営の考え方かもしれないが、今後はそれが強みとして再評価される余地もあろう。
  • 4/13号では、ラック(3857)、オムロン(6645)、スタンレー電気(6923)、平和不動産リート投資法人(8966)、キャピタランド(CAP)を取り上げた。

■主な企業決算の予定

  • 4月13日(月):コスモス薬品、エーアイテイー、ジャパンディスプレイ、ラクト・ジャパン、サムティ、ファミリーマート
  • 4月14日(火):ベクトルIDOM、Gunosy、東宝、三陽商会、吉野家HDS、ライトオン、タカキュー、トレジャー・ファクトリー、バロックジャパンリミテッド、ハウメット・エアロスペース、ウェルズ・ファーゴ、ファスナル、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)、ファースト・リパブリック・バンク、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー
  • 415日(水):ブロンコビリー、日置電機、ゴールドマン・サックス・グループ、シティグループ、ユナイテッドヘルス・グループ、USバンコープ、PNCファイナンシャル・サービシズ・グループ、バンク・オブ・アメリカ
  • 4月16日(木):ユニデンHDS、キーコープインテュイティブサージカルアボットラボラトリーズブラックロック、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン
  • 4月17日(金):アジュバンコスメジャパン、ステート・ストリート、シチズンズ・フィナンシャル・グループ、リージョンズ・ファイナンシャル、カンザスシティー・サザン、シュルンベルジェ

 

主要イベントの予定

  • 4月13日(月)

・マネーストックM2・M3(3月)

イースターマンデー、欧州や香港など休場

・中国経済全体ファイナンス規模、新規融資、マネーサプラ イ (3月、15日までに発表)

 

  • 4月14日(火)

・米シカゴ連銀総裁の質疑応答、米セントルイス連銀総裁が記者会見に参加(オンライン)、IMF・世界銀行の春期会合(バーチャル形式で、17日まで)および世界経済見通し WEO

・インドネシア中銀の政策金利発表

・米輸入物価指数 (3月)

中国貿易収支 (3)

 

  • 4月15日(水)

訪日外客数(3)

米地区連銀経済報告(ベージュブック)、米アトランタ連銀総裁講演(オンライン)、米財務省半年次為替報告書の議会への提出期限

・G20財務相・中央銀行総裁会議(バー チャル形式)、国際エネルギー機関月報

・韓国総選挙、北朝鮮の故金日成主席誕生日

米小売売上高 (3)、ニューヨーク連銀製造業景況指数(4月)、米鉱工業生産(3月)、米企業在庫 (2月)、米NAHB住宅市場指数 (4月)

 

  • 4月16日(木)

・対外・対内証券投資 (4月5-11)、東京販売用マンション(3月)

米新規失業保険申請件数 (411日終了週)、米住宅着工件数 (3)、フィラデルフィア連銀製造業景況指数(4月)

・ユーロ圏鉱工業生産 (2月)、独CPI (3月)

・豪雇用統計(3月)

・中国新築住宅価格(3月)

 

  • 4月17日(金)

日本半導体製造装置協会が3月の販売高(速報値)を発表

・鉱工業生産(2月)、第3次産業活動指数(2月)

・米景気先行指標総合指数 (3月)

・欧州新車販売台数 (3月)、ユーロ圏CPI (3月)

中国工業生産・小売売上高・都市部固定資産投資 (3)、中国 GDP (1Q)

 

  • 4月19日(日)

・立皇嗣の礼

(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)

 

※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。

 

米S&P500構成銘柄の動向

米国を代表する株価指数のS&P500の構成銘柄の株価につき年初来および昨年来上昇率の25銘柄を見ると、7銘柄が両方にリストアップされる。その業種分類上の内訳は、インフラ・ソフトウエアが2銘柄、REITが2銘柄、半導体素子が1銘柄、情報サービスが1銘柄、大規模小売店が1銘柄。これらの銘柄または業種分類は一過性ではない持続的な株価上昇力を示している面があると考えられよう。

また、昨年来上昇率では半導体素子や半導体製造が上位の多くを占めたが、年初来上昇率ではバイオテクノロジーの躍進が目立っている。新型コロナウイルス感染拡大を受けて治療薬やワクチンの早期の開発への市場の期待の高まりを反映されている面があろう。バイオテクノロジー銘柄は引き続き注目されよう。

【米S&P500構成銘柄の動向~年初来および昨年来上昇率上位銘柄に注目】

 

■VIX とWTI原油の先物投機筋建玉

市場参加者の予想変動率を表すVIX指数につき過去5年の投機筋の先物建玉状況を見ると、VIX指数が上昇後に反転する際に一旦買い越しになることが多い。2020/3最終週終値のVIX指数は65.54に達したが、投機筋の先物建玉状況は約18,000枚の売り越し。今後買い越しに転じるかどうかが注目されよう。

WTI原油先物価格は、2020/3最終週終値が1バレル21.51ドルに下落したものの、投機筋の先物建玉状況は約435,000枚の買い越し。過去5年の先物価格と投機筋の建玉状況の関係を見ると、建玉の買い越し枚数が十分に減少した後に先物価格が反転上昇していることが分かる。WTI原油先物価格の上昇を期待する上では、投機筋の先物買い越し枚数が減少するかどうかが重要と言えよう。

VIX WTI原油の先物投機筋建玉~建玉状況の変化から相場動向を探る】

 

■日本株の需給動向

4/3時点の裁定取引に係る現物ポジションは買い残が6,466億円に対し、売り残が1兆6,045億円。売り残は1/10の7,131億円から2.3倍となった。昨年の日経平均株価は、2019/9に売り残が過去最高の2兆666億円まで増加後、買戻しによるポジション解消が進み、2020/1に日経平均が24,000円超まで上昇する需給面での原動力となった。現状の高水準の売り残解消が進むかどうかが注目されよう。

年金運用を行うGPIFやETF買入れを行う日銀の売買を主体とする信託銀行、および事業法人の売買動向では、2020/3末の信託銀行勘定の買いが目立った。ただし、2018/10以降は四半期末を除けば事業法人が買い越し基調を継続している。今後も自社株買いを背景に引き続き買い主体となることが期待されよう。

【日本株の需給動向~裁定買い残・売り残、主な投資主体の株式売買動向】

 

■アセアン株式ウィークリー・ストラテジー

(4/13号「新型コロナウイルス感染状況」)

4/9までのアセアン4ヵ国の新型コロナウイルス感染状況は以下の通り。シンガポールは感染者数が1,124人、死者数が43人。タイは感染者数が2,423人、死者数が32人。マレーシアは感染者数が4,228人、死者数が67人。インドネシアは感染者数が3,293人、死者数が280人。

各国の対応は、シンガポールが4/7より大半の職場を閉鎖させる「サーキットブレーカー」を実施。生活維持に欠かせない「エッセンシャルサービス」を除く企業は職場を5/4まで閉鎖。タイが3/26から4/30まで非常事態を宣言。県境を越える移動の自粛を強く求め、全国350ヵ所に検問所を設置。4/3より夜間外出禁止令を発動。マレーシアが3/18から4/14まで活動制限令を発令。4/1以降「第二段階の措置」として正当理由のない外出を禁止。インドネシアは3/31に外国人の入国を原則禁止とした。

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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部

笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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