【投資戦略ウィークリー 2020年2月25日号(2020年2月21日作成)】”円安ドル高とスーパーアプリ、バッタも気になる”
■円安ドル高とスーパーアプリ、バッタも気になる
- 2/18のNY市場終値が1ドル109円86銭だったドル円相場が2/19の日本での取引時間終了後に動意付き、2/20に2019/4以来となる112円22銭まで急上昇した。新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大する中、従来は金価格と同様にリスクオフの時に買われて円高ドル安、リスクオンの時に円安ドル高となる傾向があった円相場に変質の兆しが見られる。これは、110円台に大量のドル売りポジションが溜まっていたところでストップロスを巻き込んだ「踏み上げ」が発生した需給面の要因もあるが、2/17に発表された2019/10-12月期の実質GDP速報値が前期比年率換算でマイナス3%となったことに加え、新型コロナウイルスの集団感染が起きたクルーズ船における日本政府の感染対策への海外からの批判などが「日本売り」に繋がり易かった面が大きいと考えられる。その一方、米国は2月のフィラデルフィア連銀およびNY連銀の製造業景気指数が1月から更に上昇するなど、2月に入っても景気の勢いに衰えが見られないことから米ドル買いに一気に投資資金が向かったことも大きな要因だろう。円安ドル高は、通常は日本株上昇要因と見られるが、急激な円安ドル高にかかわらず日経平均株価は2/20に23,806円まで上昇後に23,500円割れまで下落した。
- 2/20に三菱UFJ銀行がシンガポールの配車サービス最大手のグラブに最大800億円を出資して資本業務提携することが報じられた。グラブが持つ顧客基盤を活用し、スマホアプリによる融資や保険の事業を共同で展開するとされているが、暮らしにかかわる色々なサービスを1つのアプリで完結する「スーパーアプリ」の重要性が高まり、スーパーアプリを抜きにしてはビジネスが成り立たない危機感の表れという面もあろう。グラブはアセアンでインドネシアのゴジェックとスーパーアプリの覇権を巡って争っており、タイではサイアム商業銀行はゴジェックと、カシコン銀行はグラブと資本業務提携を行っている。日本においても将来的にはLINE、PayPay、およびメルカリ・メルペイなどが注目される。また、アジアで拡大しているイオンモール(8905)は、顧客データ活用の観点からフィンテックの分野でポテンシャルを秘めていると考えられる。
- また、異常気象を原因として東アフリカを初めインドやパキスタンでもバッタが大量発生し、農作物に甚大な被害を及ぼしている。気候変動リスクの顕在化に伴い、今まで見たことがないような危機やリスクが相次ぐ可能性も考えておくべきなのかも知れない。
- 2/25号では、不二製油グループ本社(2607)、伊藤忠アドバンス・ロジスティクス投資法人(3493)、菱洋エレクトロ(8068)、イオンフィナンシャルサービス(8570)、アドバンスト・インフォ・サービス(ADVANC)を取り上げた。
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■主な企業決算の予定
- 2月24日(月):インテュイット
- 2月25日(火):ホーム・デポ、コスター・グループ
- 2月26日(水): ロウズ、ブッキング・ホールディングス、トリップドットコムグループ、バイオマリン・ファーマシューティカル、アンシス、マリオット・インターナショナル、網易
- 2月27日(木):オキシデンタル・ペトロリアム、バイドゥ、ワークデイ、モンスタービバレッジ、オートデスク
■主要イベントの予定
- 2月24日(月)
・米クリーブランド連銀総裁の講演
・ラガルドECB総裁の講演
・中国の全人代常務委員会、3月開催の全人代の延期を検討
・独IFO企業景況感指数(2月)
- 2月25日(火)
・AHCグループ、マザーズに新規上場
・企業向けサービス価格指数(1月)、景気先行CI指数・景気一致指数 (12月)
・クラリダ米FRB副議長の講演
・米大統領選、 民主党指名獲得争う候補者による討論会(サウスカロライナ州)
・米主要20都市住宅価格指数 (12月)、米FHFA住宅価格指数 (12月)、米消費者信頼感指数
・独GDP (4Q) (2月)
- 2月26日(水)
・二次電池展(28日まで、東京 ビッグサイト青海展示棟)
・スーパーマーケット売上高(1月)
・米新築住宅販売件数(1月)
- 2月27日(木)
・雨宮日銀副総裁、日銀主催の決済フォーラムであいさつ
・米シカゴ連銀総裁、メキシコ市でのイベントに参加
・韓国中銀、政策金利発表
・米新規 失業保険申請件数 (22日終了週)、米耐久財受注 (1月)、米GDP(4Q、改定値)、米中古住宅販売成約指数 (1月)
・ユーロ圏マネーサプライ (1月)、ユーロ圏景況感指数 (2月)、ユーロ圏消費者信頼感指数 (2月)
- 2月28日(金)
・東京CPI(2月)、失業率 (1月)、有効求人倍率 (1月)、鉱工業生産 (1月)、小売売上高(1月)、百貨店・スーパー売上高(1月)、自動車生産台数(12 月)、住宅着工戸数(1月)、建設工事受注(1月)
・米セントルイス連銀総裁の講演
・米個人所得・支出 (1月)、米卸売在庫 (1月)、米ミシガン大学消費者マインド指数 (2月)
・ユーロ圏CPI (2月)、独失業率 (2月)、独CPI (2月)
・インドGDP (4Q)
- 2月29日(土)
・米大統領選、サウスカロライナ州予備選(民)
・スロバキア議会選挙
・中国製造業・非製造業・コンポジットPMI (2月)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
■グローバルマネーの潮流の変化
円は従来、安全資産という位置づけからリスク回避目的で買われる傾向にあり、リスクが顕在化した際には金価格とともに円相場が上昇する傾向にあった。しかし、2019年末頃からは金価格が上昇するものの円安ドル高に振れていることが分かる。リスク回避目的で買われやすい安全資産としての円相場が変質している可能性があろう。
また、主要先進国のマネーサプライ(M2)の合計額であるグローバル・マネーサプライ指数は2020年初から減少傾向に転じているが、米国株は上昇を継続している。2019年末まで両者の動きが高い連動性を示していたところから、グローバルマネーが急速に米国一極集中へ変質していることが示唆される。逆行現象の持続性に要注意だろう。
【グローバルマネーの潮流に変化~ドル円相場とグローバル・マネーサプライ】
■S&P500業種別株価と企業業績
2/14付のファクトセット(Earning Insight)によれば、米国S&P500株価指数構成銘柄の2019/10-12月決算は、実績および予想の合計ベースで純利益が前年同期比0.9%増となった。2020/1-3月利益予想が同2.1%増、2020年通年でも前年比0.7%増が見込まれている。ただし、2/14までの年初来騰落率がプラスの業種であっても、消費(一般消費財)や資本財のように減益見通しのものも含まれている。
新型コロナウイルスへ言及した企業数が多い「情報技術」の年初来上昇率が高くなっている。関連するリスクの把握が難しい面もあり、株価への織り込みが進んでいない可能性もあろう。その一方、言及する企業が少ない業種は当該リスクの影響が小さいと考えられよう。
【S&P500業種別株価と企業業績~株価は業績見通しを織り込んでいるか?】
■GDP成長率のマイナスの原因
2/17に発表された2019/10-12月期の実質GDP速報値は、前期比1.6%減(年率換算で6.3%減)と5四半期ぶりのマイナスとなった。民間消費支出は前期比2.9%減であり、2014/4の消費税増税後の同4.8%減よりは減少率が小さかったものの、民間設備投資が同3.7%減となったことが響きマイナスが拡大した。
民間設備投資の減少については、2018/7-9月の民間設備投資が西日本豪雨や台風21号に伴う関西空港水没などにより前期比4.2%減となったことと同様に、2019年秋の房総半島台風および東日本台風が大きな影響を及ぼしたと考えられる。毎年のように大規模自然災害が発生する傾向が見られる中、自然災害に伴う影響を一時的な要因に伴うものと見ることが難しい面もあろう。
【GDP成長率のマイナスの原因~民間設備投資の落ち込み要因がポイント】
■アセアン株式ウィークリー・ストラテジー
1/23のマレーシア、2/6のタイに引き続き、2/20にインドネシア中銀が政策金利を0.25%引き下げて4.75%とした。新型コロナウイルス感染拡大による国内経済への影響を和らげる目的がある。また、2/17発表のタイGDPは、2019年4Q(10-12月)が前年同期比1.6%増と3Qの同2.6%増から減速。国家経済委員会は2020年のGDP成長率予想を従来の2.7-3.7%から1.5-2.5%に引き下げた。
2/18発表のシンガポールGDPは、2019年4Qが同1.0%増と3Qの同0.7%増を成長率が上回ったものの、同国の通産省は新型コロナウイルス感染拡大を受け、2020年の経済成長率予想を従来の前年比0.5-2.5%から同マイナス0.5-プラス1.5%へ下方修正。観光業への打撃だけではなく、中国への配送遅れや中国での生産低下、サプライチェーンの混乱など様々な影響が懸念されよう。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。