【投資戦略ウィークリー 2020年1月20日号(2020年1月17日作成)】“豪州森林火災と日本の人工光合成技術”
■豪州森林火災と日本の人工光合成技術
- 1/14週の日本株相場は、米中貿易協議の第1段階合意への署名を前に米国が中国の「為替操作国」認定を解除する旨を発表したことから、米中関係の進展期待を背景とした買い優勢の展開で始まった。日本企業の決算発表が9-11月期終了と10-12月期開始の端境期にあることから日本株独自の材料よりは、日経平均株価を意識した指数に係る現物と先物の裁定取引に左右される展開となり、指数への寄与度が高い銘柄に影響される相場展開が見られた。また、アップル(AAPL)のiPhoneに部品を供給する銘柄への買いの動きも引き続き目立った。
- 2019年の世界の平均気温が観測史上2番目に高かったことが世界気象機関より1/15に発表され、地球温暖化の進展が裏付けられた。海外に目を転じると、オーストラリアでは特に2019年は平均降水量が観測史上最も少なく空気が乾燥したことや平均気温も過去最高を記録し、12月に記録的な熱波が到来したことなど条件が整っていたこともあり、2019/9に発生した森林火災の勢いが止まらず、現在まで日本の面積の3割近くが類焼したと報じられている。更に、森林火災から発生した大量の煙によって呼吸困難を訴える患者が続出し、煙が海を越えてニュージーランドや南米大陸に到達したと伝えられている。
- 平均気温が上昇することで洪水や干ばつの頻度が増すと言われる。洪水後の水の衛生状態の悪化、および水が使えないための不衛生により、どちらの場合も感染症が流行する可能性に繋がる。昨年12月に中国の武漢で新型ウイルスへの感染が原因の肺炎が発生し、日本でも感染者が見つかった。昨年流行したASF(アフリカ豚コレラ)に関し、中国は大量の豚の殺処分を余儀なくされ、豚肉供給の減少が物価上昇を招き世界の穀物・植物油相場のトレンドを転換するほどの影響を経済に与えた。米中合意の第1段階合意は中国が農産物を安定かつ大量に購入せざるを得ない事情に後押しされた面もあろう。
- 日本では太陽光を利用してCO2と水を炭素化合物に変換することを目指す国家プロジェクト「人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)」が2012年に開始され、三菱ケミカルHDS(4188)の瀬戸山執行役員がプロジェクトリーダーを担当している。また、東芝(6502)も独自のアプローチで問題解決を目指しており、両陣営の今後の進展が期待されよう。
- 1/20号では、久光製薬(4530)、リゾートトラス(4681)、豊田通商(8015)、ライフコーポレーション(8194)、インドフード・サクセス・マクムール(INDF)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 1月21日(火):東京製鐵、光世証券、キャピタル・ワン・ファイナンシャル、ネットフリックス、ZBナショナル・アソシエーション、ユナイテッド・エアラインズ・ホールディングス、IBM、コメリカ、ハリバートン
- 1月22日(水):GenkyDrugStore、シトリックス・システムズ、SLグリーン・リアルティ、テキサス・インスツルメンツ、レイモンド・ジェームズ・ファイナンシャル、ベイカー・ヒューズ、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)、フィフス・サード・バンコープ、アンフェノール、ノーザン・トラスト、プロロジス、キンダー・モルガン、アボットラボラトリーズ
- 1月23日(木):ディスコ、日本電産、ディスカバー・ファイナンシャル・サービシズ、SVBファイナンシャル・グループ、スカイワークス・ソリューションズ、Eトレード・ファイナンシャル、インテュイティブサージカル、ユニオン・パシフィック、VF、サウスウエスト航空、キンバリー・クラーク、コムキャスト、M&Tバンク、トラベラーズ、キーコープ、インテル、アメリカン航空グループ、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、ハンチントン・バンクシェアーズ、フリーポート・マクモラン
- 1月24日(金):きもと、日置電機、未来工業、カワチ薬品、エンプラス、ピー・シー・エー、ジャフコ、杉本商事、アメリカン・エキスプレス、エアープロダクツ・アンド・ケミカルズ、シンクロニー・ファイナンシャル、ネクステラ・エナジー
■主要イベントの予定
- 1月20日(月)
・衆院本会議で安倍首相の施政方針演説など政府4演説
・鉱工業生産・設備稼働率 (11月)、コンビニエンスストア売上高(12月)
・米キング牧師生誕記念日で祝日、株式・債券市場は休場
・華為技術(ファーウェイ)CFOの米身柄引き渡しに関する審理開始(カナダ)
・IMF、世界経済見通し(WEO、スイス・ダボス)
- 1月21日(火)
・日銀金融政策決定会合、終了後に結果と展望リポートを発表(黒田総裁会見)
・世界経済フォーラム(ダボス会議、24日まで)
・独ZEW期待指数 (1月)、英失業率(9-11月)
- 1月22日(水)
・東京販売用マンション (12月)、全国百貨店売上高・東京地区百貨店売上高(12月)、月例経済報告(1月)
・マレーシア中銀政策金利発表、韓国GDP(10-12月)
・米FHFA住宅価格指数 (11月)、米中古住宅販売件数 (12月)
- 1月23日(木)
・対外・対内証券投資 (1月12-18日)、貿易収支 (12月)、全産業活動指数 (11月)、景気先行CI指数・景気一致指数 (11月)、工作機械受注(12月)
・ECBが政策金利発表、ラガルド総裁記者会見
・インドネシア中銀政策金利発表、豪雇用統計(12月)、フィリピンGDP(10-12月、2019年)
・米新規失業保険申請件数 (1月18日終了週)、米景気先行指標総合指数 (12月)
・ユーロ圏消費者信頼感指数 (1月)
- 1月24日(金)
・日銀金融政策決定会合議事要旨(12月18・19日分)
・全国CPI(12月)、じぶん銀行日本PMI 製造業・サービス業・コンポジット(1月)
・中国春節(旧正月)休暇で休場(30日まで)、31日に取引再開
・ECB専門家予測 調査、ユーロ圏PMI製造業・サービス業・総合(1月)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■好調な米消費を支える構造
1/10に発表された12月の米国雇用統計では失業率が11月と同様、約50年ぶりの低水準である3.5%を維持したものの平均時給の前年同月比が2.9%増と17か月ぶりに3%を下回った。これは米労働市場で直近1年間に増えた就業者数211万人のうち、牽引役となったサービス業(177万人増)の賃金が伸び悩んでいることが大きな要因と見られる。
その一方、1/14発表の12月の消費者物価指数は前年同月比2.3%上昇と14か月ぶりの大きな伸びとなり、コア指数でも3か月連続で同2.3%上昇となった。米国経済を支える個人消費は高い賃金伸び率と伸び悩む物価上昇率がもたらす可処分所得の伸びに支えられる面が大きい。個人消費支出の伸びが鈍化するかどうかが注目されよう。
【好調な米消費を支える構造~高い賃金伸び率と低い物価上昇率は続くか?】
■好調な市場と出遅れの市場
昨年来の騰落率でアセアン4ヵ国の株価指数と日経平均およびNYダウのパフォーマンスを見ると、日米株価の好調な推移と対照的にアセアン4ヵ国の株価指数が出遅れている。アセアン4ヵ国の株価は米中貿易協議の先行き懸念が主な相場低迷の要因となっていたが、米中の第1段階合意を契機に出遅れを取り戻す動きとなるかが注目されよう。
好調な米国株の中で時価総額が大きなIT企業であるFANGMAN(フェイスブック、アップル、ネットフリックス、グーグル、マイクロソフト、アマゾン、エヌビディアの頭文字)の昨年来騰落率を見ると、グーグルの親会社であるアルファベット、ネットフリックス、アマゾンの相対的な出遅れが目立つ。出遅れを取り戻す動きが見られるかどうか注目したい。
【好調な市場と出遅れの市場~好調な米国市場主力株の中にも跛行色あり】
■日本株の需給およびPBRの動向
日本株の需給について裁定買い残(「先物売り・現物買い」のポジション未解消の現物買い残高)および裁定売り残(「先物買い・現物売り」のポジション未解消の現物売り残高)の推移を見ると、2019/12に半年ぶりに買い残が売り残を上回った。この状態が今後定着するかどうかが日本株相場の上昇トレンドが定着するかどうかの鍵を握ろう。
日経平均株価において構成銘柄毎の時価総額や自己資本額の違いを加味した加重平均PBRは1/15で1.16倍であり、過去4年の中央値である1.19倍に近づきつつある。1/15終値で日経平均の加重平均BPSは20,617円と1年前と比較して9.3%増加した。日本株相場は下値リスクを軽減しつつ、「正常化」へ向かう途上にあるのかも知れない。
【日本株の需給およびPBRの動向~日本株相場の正常化への回帰なのか?】
■アセアン株式ウィークリー・ストラテジー
アセアン4ヵ国における政府主導の大型インフラ開発プロジェクトについては、インドネシアとタイが注目される。インドネシアはカリマンタン島への首都移転が決まり約3兆円のインフラ整備費が見込まれるほか、2020-2024年に総額45兆円規模の25の空港や発電所建設などの投資が必要となる包括的な計画がある。首都移転に関してはソフトバンクG(9984)も決済アプリを武器にスマートシティの投資機会を狙っている。タイは2017-2021年でドンムアン、スワンナプーム、ウタパオの3国際空港を高速鉄道で結ぶ約6兆円規模の「東部経済回廊(EEC)」プロジェクトが進行中。スワンナプーム空港およびレムチャバン港の拡張事業を進めて輸出入貿易額を増やし、アセアンの物流ハブの主導的地位を確立できるか要注目。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。