【投資戦略ウィークリー 2019年12月16日号(2019年12月13日作成)】“経済対策と長期金利上昇の市場への影響は?”
■経済対策と長期金利上昇の市場への影響は?
- 12/13のメジャーSQ日(株価指数先物取引のうち取引枚数の多い3・6・9・12月限の先物取引とオプション取引の清算日が重なる日)に、日経平均株価が前日終値の23,424円から節目の24,000円を超える水準まで急騰した。トランプ米大統領が中国との第1段階貿易合意を承認し、12/15に中国からの輸入品約1,600億ドル相当に対して発動予定だった関税引上げが見送られる見通しとなったことを株式市場が好感した形となった。
- 足元の日本経済に目を転じると、12/13発表の12月の日銀短観では大企業製造業の業況判断指数(DI)は前回調査から5ポイント悪化のゼロとなり、大企業非製造業も個人消費の落ち込みで2期連続で悪化するなど、先行きの景気に暗雲が立ち込めているように見える。その中で、政府は12/5発表の大型経済対策に続き、与党が12/12に決定した2020年度の税制大綱に5G情報通信インフラの普及のための法人税軽減措置を新設するなど、重点分野や成長分野を明確にした政策が打たれた。また、12/7には2030年までに訪日外国人旅行者を6千万人とする政府目標をめぐり、菅官房長官が「世界レベルのホテルを全国50ヵ所程度新設する」との方針を打ち出した。2020年以降もグローバル経済が米中摩擦による影響を免れえないとすれば、政府予算に裏付けられた内需の恩恵を受ける企業に注目することは日本株投資戦略において重要と考えられよう。
- 12/10に長期金利(10年国債利回り)が9ヵ月ぶりにゼロ%に浮上。マイナス金利を脱した。11月には日銀の黒田総裁が国会で「マイナスの政策金利について深掘りの余地は十分にある」と答弁し、銀行預金者口座への維持手数料導入による銀行収益への影響が株式市場で懸念されていた。長期金利上昇は一時的にはこのような懸念を和らげる効果があろう。その一方、政府や企業の債務残高が拡大する中、利払い負担増に繋がることの経済への悪影響も懸念される。長期金利上昇は日本だけではなく、米国での12/6発表の11月の米国雇用統計、および欧州での12/10発表の12月のドイツZEW景況感指数が市場予想を大きく上回る強い数字だったことが示すようにグローバル経済に対する景気見通し改善が背景となっている可能性がある。長期金利上昇の影響が今後の株式市場にどのように現われるかを注視していくことが必要だろう。(笹木)
- 12/16号では、ハウスドゥ(3457)、MRT(6034)、ディスコ(6146)、NEC(6701)、東京ドーム(9681)、泉州電業(9824)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 12月16日(月):パーク24、東洋インキSCホールディングス、アークランドサカモト
- 12月17日(火):アスクル、シンタス、フェデックス
- 12月18日(水):コーセル、ツルハホールディングス、ペイチェックス、ゼネラル・ミルズ、マイクロン・テクノロジー
- 12月19日(木):ダーデン・レストランツ、コナグラ・ブランズ、ナイキ
- 12月20日(金):サツドラホールディングス、カーマックス
■主要イベントの予定
- 12月16日(月)
・ベースが東証2部に新規上場、JMDCが東証マザーズに新規上場、ランサーズが東証マザーズに新規上場
・日韓輸出管理政策対話の局長級会合(経済産業省)
・じぶん銀行日本PMI製造業・サービス業・コンポジット(12月)、第3次産業活動指数(10月)
・英中銀が金融安定報告と銀行ストレステスト結果を公表
・ニューヨーク連銀製造業景況指数(12月)
・米NAHB住宅市場指数(12月)、米対米証券投資(全体)(10月)、ユーロ圏総合・製造業・サービス業PMI(12月)、中国新築住宅価格(11月)、中国工業生産・小売売上高・都市部固定資産投資(11月)
- 12月17日(火)
・ソフトバンクGの孫社長が内閣府など主催の社会課題解決型の国際シンポジウムで講演(東京)
・トヨタの自動運転子会社「TRI-AD」が東京・日本橋のオフィスのオープニングセレモニー
・ウィルズが東証マザーズに新規上場、フリーが東証マザーズに新規上場
・日本取引所グループの清田CEO定例会見
・茂木外相がロシア訪問(21日まで)日ロ外相会談開催
・東京販売用マンション(11月)
・米ダラス連銀総裁が講演、米ボストン連銀総裁が講演、米ニューヨーク連銀総裁が記者会見
・米住宅着工件数(11月)、米鉱工業生産(11月)、米求人件数(10月)、欧州新車販売台数(11月)、英失業率(8-10月)
海外決算予定
- 12月18日(水)
・国際ロボット展が開幕(21日まで、東京ビッグサイト)
・BuySellTechnologiesが東証マザーズに新規上場、ユナイトアンドグロウが東証マザーズに新規上場、JTOWERが東証マザーズに新規上場
・貿易統計(11月)、訪日外客数(11月)
・米シカゴ連銀総裁が講演、タイ中銀が政策金利発表
・ユーロ圏CPI(11月)、独IFO企業景況感指数(12月)、英CPI(11月)
- 12月19日(木)
・日銀金融政策決定会合、終了後に結果を発表
・自工会の豊田会長(トヨタ自動車社長)が会見
・三菱航空機社長らがジェット旅客機開発の進ちょくについて記者説明
・全銀協の高島会長(三井住友銀頭取)が定例会見
・SREホールディングスが東証マザーズに新規上場、ランディックスが東証マザーズに新規上場
・対内・対外証券投資(12月8-14日)、工作機械受注(11月)
・米大統領選挙、民主党指名争う候補者による討論会(ロサンゼルス)
・英中銀が政策金利発表、インドネシア中銀が政策金利発表
・米経常収支(7-9月)、フィラデルフィア連銀製造業景況指数(12月)、米新規失業保険申請件数(12月14日終了週)、米中古住宅販売件数(11月)、米景気先行指標総合指数(11月)、豪雇用統計(11月)、ニュージーランドGDP(7-9月)
- 12月20日(金)
・スペースマーケットが東証マザーズに新規上場、INCLUSIVEが東証マザーズに新規上場
・全国CPI(11月)、全国百貨店売上高(11月)、東京地区百貨店売上高(11月)、コンビニエンスストア売上高(11月)
・米暫定予算の期限、ポルトガルから中国へのマカオ返還20周年
・米GDP(7-9月、確定値)、米個人所得(11月)、米個人支出(11月)、米ミシガン大学消費者マインド指数(12月)、ユーロ圏消費者信頼感指数(12月)、英GDP(7-9月、確定値)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
■堅調が続く米国の雇用市場
米労働省が12/6発表した11月の雇用統計では、景気動向を敏感に映す非農業部門雇用者数が前月比26.6万人増。増加幅は市場予想の18.0万人や前月改定値の15.6万人を上回った。ゼネラルモーターズ(GM)のスト終了に伴う従業員の復帰により、自動車・自動車部品産業が4.1万人となった。10月は速報値の12.8万人から上方修正。
11月の失業率(U-3)は前月から0.1pt低下の3.5%。9月に付けた約半世紀ぶりの低水準に並んだ。労働参加率は63.2%と約6年ぶりの高水準だった前月からやや低下した。平均時給は前年同月比3.1%増の28.29ドル。伸び率は16ヵ月連続の3%台となった。貿易戦争の影響が続く中、米経済が緩やかな成長を続けていると言えよう。(増渕)
【非農業部門雇用者数は26.6万人増加~失業率は約半世紀ぶりの水準】
■米FOMCは政策金利据え置き
米連邦公開市場委員会(FOMC)は12/10‐11の定例会合で、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を1.50-1.75%で維持すると決定。5月会合以降で初となる全会一致での決定だった。FOMCは景気腰折れ懸念に対応し、前回まで3会合連続で利下げを実施している。声明では、経済の持続的な拡大、力強い労働市場、2%目標付近でのインフレ率推移を支えるため、現在の金融政策スタンスは適切だとした。
パウエル議長は会見で、引き締め政策に戻るには、著しくて持続性のあるインフレ加速が必要だと述べ、ハードルが高いことを強調した。ドットチャートによると、当局者17人のうち13人が2020年内の金利据え置きを予想。当面はハト派的な金融政策が続きそう。(増渕)
【FF金利誘導目標は1.50-1.75%で据え置き~議長のハト派姿勢が鮮明に】
■日本株の需給およびPERの動向
日本株の需給について、裁定買い残(「先物売り・現物買い」のポジションを組んだ裁定取引未解消の現物買い残高)および裁定売り残(「先物買い・現物売り」のポジションを組んだ裁定取引未解消の現物売り残高)の推移を見ると、2019/9以降に売り残の減少、および買い残の増加が見られる。ただし、売り残減少、買い残増加のトレンドに転換したとまでは見えにくい面もある。
日経平均株価において構成銘柄毎の時価総額や自己資本の大きさの違いを加味した加重平均ベースの予想PER(株価収益率)は2018/1以来の14倍超えとなった。加重平均予想PERの上昇が続けば先高感から裁定買い残の増加も見込まれ、日経平均株価の上昇要因に繋がりやすい面もあろう。(笹木)
【日本株の需給およびPERの動向~変化は一時的なものかトレンド転換か?】
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。