【米国ウィークリー 2021年1月19日号(2021年1月18日作成)】“米大手銀行とフィンテック企業の争いに注目”
■”米大手銀行とフィンテック企業の争いに注目“
- 米主要企業の2020年10-12月期決算発表が始まった。世界最大の資産運用会社のブラックロック(BLK)が14日に発表した同決算は、昨年12月末の運用資産が同9月末比11%増の8兆6,800億ドルと過去最高と記録し、調整後純利益が前年同期比20%増と好調だった。バイデン次期大統領は、米国家経済会議(NEC)委員長や財務副長官の人事にブラックロック出身者を登用する方針を示していることから、同社は金融業界を代表する銘柄として今後は注目されよう。
- また、15日にはJPモルガン・チェース(JPM)、シティグループ(C)、ウエルズ・ファーゴ(WFC)の米大手銀3行の同決算が発表された。7-9月期までは貸倒引当金や貸倒損失など不良債権処理費用(信用コスト)が利益圧迫要因となっていたなか、10-12月期は貸倒引当金を算出する前提となる経済の先行き見通しが改善したことから3行ともに一転して戻し入れとなる追い風が吹いた。ただし、中長期的観点では、預貸の利ザヤを収益の柱とする商業銀行部門のウエイトが大きい銀行株は、次期バイデン民主党政権下で大規模インフラに向けた財政支出拡大が長期金利を押し上げるかどうかが投資の重要なポイントとなろう。
- 金融業界への投資では、フィンテック銘柄の動向が重要だろう。2020年は、決済情報処理のシフト・フォー・ペイメンツ(FOUR)、デジタル融資や住宅所有者向け保険のレモネード(LMND)、銀行向けクラウドソフトウェアのエヌシーノ(NCNO)、ネット経由で住宅ローンを提供するロケットカンパニーズ(RKT)、アプリ型自動車保険を販売するルート・インシュランス(ROOT)、飲食店のフードデリバリーの決済アプリを取り扱うドアダッシュ(DASH)が新規上場。1/15終値の時価総額では、ロケットカンパニーズ(約390億ドル)とドアダッシュ(約600億ドル)の2社が100億ドルを超えた。更に、新年13日にはネット通販向けに消費者ローンを提供するアファーム・ホールディングス(AFRM)が新規上場を果たし、15日終値の時価総額が284億ドルに達するなどフィンテック企業の勢いが加速している。ただし、長期金利上昇の局面では、将来キャッシュフローの現在価値への割引率が高まることからグロース株への株価下落圧力が強まるとみられる。大手銀行株と新興フィンテック企業の争いは、株価では長期金利が鍵を握ろう。
- その他、ペイパル・ホールディングス(PYPL)、スクエア(SQ)、インテュイット(INTU)など政府の景気刺激策の下で中小企業向け融資プログラムに参加が認められていたフィンテック企業も存在感を増しており、注目されよう。(笹木)
- 1/19号では、アッヴィ(ABBV)、KE Holdings Inc(BEKE)、キーサイト・テクノロジーズ(KEYS)、マッチ・グループ(MTCH)、テイクツー・インタラクティブ・ソフトウエア(TTWO)、トゥイリオ(TWLO)を取り上げた。
■S&P500業種別およびNYダウ構成銘柄の騰落率(1/15現在)
■主な企業決算の予定
- 1月19日(火):JBハント・トランスポート・サービシズ、ネットフリックス、ステート・ストリート、ゴールドマン・サックス・グループ、バンク・オブ・アメリカ、コメリカ、ハリバートン、チャールズ・シュワブ
- 1月20日(水):ユナイテッド・エアラインズ・ホールディングス、モルガン・スタンレー、ファスナル、USバンコープ、シチズンズ・フィナンシャル・グループ、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン、ユナイテッドヘルス・グループ、キンダー・モルガン、ASMLホールディンク
- 1月21日(木):CSX、インテル、インテュイティブサージカル、IBM、PPGインダストリーズ、SVBファイナンシャル・グループ、シーゲイト・テクノロジー、ピープルズ・ユナイテッド・ファイナンシャル、ユニオン・パシフィック、ベーカー・ヒューズ、フィフス・サード・バンコープ、トゥルイスト・ファイナンシャル、シトリックス・システムズ、キーコープ、ノーザン・トラスト、トラベラーズ
- 1月22日(金):シュルンベルジェ、リージョンズ・ファイナンシャル、カンザスシティー・サザン
- 1月25日(月):キンバリー・クラーク
■主要イベントの予定
- 1月19日(火)
・米上院財政委でイエレン氏の財務長官指名承認公聴会、米上院外交委でブリンケン氏の国務長官指名承認公聴会、対米証券投資(11月)
- 1月20日(水)
・バイデン氏が米大統領に就任、米NAHB住宅市場指数(1月)
- 1月21日(木)
・米新規失業保険申請件数(16日終了週)、米住宅着工件数(12月)、フィラデルフィア連銀製造業景況指数(1月)
- 1月22日(金)
・米中古住宅販売件数(12月)
- 1月25日(月)
・シカゴ連銀全米活動指数(12月)、ダラス連銀製造業活動(1月)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
■銘柄ピックアップ
アッヴィ(ABBV)
市場:NYSE・・・2021/2/3に2020/12期4Q(10-12月)の決算発表
・2013年にアボット・ラボラトリーズ(ABT)からの分社化により設立。自己免疫疾患、オンコロジー、ウイルス学、神経疾患などの領域で医薬品を提供。関節リウマチ薬「ヒュミラ」が同社の主力製品。
・10/30発表の2020/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比52.2%増の129.02億USD、Non-GAAPの調整後純利益が同45.6%増の50.48億USD。昨年6月に買収完了したアラガンがしわ取り薬「ボトックス」を中心に増収に寄与したほか、主力の「ヒュミラ」が同4.1%増収となったことが業績に寄与。
・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比37.4%増の457.0億USD(従来計画332.66億USD)、買収に伴うのれん償却を除く調整後EPSを10.47-10.49USD(同10.35-10.45USD、前期実績8.94USD)とした。また、21年度の最初の四半期配当を前年同期比10.2%増とする方針を発表。主力薬ヒュミラの23年での米市場特許切れを控え、乾癬治療薬「スキリージ」の新薬効果が期待される。(李)
KE Holdings Inc(BEKE)
市場:NYSE(ADR)・・・2021/2/16に2020/12期4Q(10-12月)の決算発表
・2018年に不動産仲介大手の「鏈家網(Lianjia)」傘下からスピンオフした中国企業。VR内覧が可能な不動産オンラインプラットフォーム「貝殻找房(ベイクジャオファン)」を運営。20年8月に新規上場。
・11/16発表の2020/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比70.9%増の205.49億元、Non-GAAPの調整後純利益が同3.1倍の18.58億元。同社プラットフォーム経由の住宅総取引額が同87.2%増の1兆500億元。セグメント別では新築住宅取引サービスが同95%増収(110.74億元)と業績に寄与。
・2020/12期4Q(10-12月)会社計画は、売上高が前年同期比33.5-40.5%増の192-202億元。同社は3Q時点で全住宅ストックの50%以上、2億3,300万戸のデータベースを保有。うち、VR内覧できる物件が約500万戸。アクセス可能な不動産仲介市場規模が32-35兆元とみられるなか、市場シェアが2018年の5.3%から9.0%に拡大。会社は早期に市場シェア12-13%獲得できると見込む。(李)
キーサイト・テクノロジーズ(KEYS)
市場:NYSE・・・2021/2/24に2021/10期1Q(2020/11-2021/1)の決算発表
・ヒューレット・パッカードから独立したアジレント・テクノロジー(A)の電子計測事業を2014年に引き継ぐ。無線通信、航空・宇宙・防衛、半導体の各市場向けに電子計測プラットフォームなどを提供。
・11/18発表の2020/10期4Q(8-10月)は、売上高が前年同期比8.9%増の12.20億USD、Non-GAAPの調整後純利益が同20.1%増の3.05億USD。いずれも市場予想を大きく上回った。主力の通信ソリューションが同7.5%増収(9.01億USD)と増収に寄与。受注額は同3.1%増、3Q比でも15.4%増。
・2021/10期1Q(2020/11-2021/1)の会社計画は、売上高が11.40-11.60億USD(前年同期10.95億USD)、調整後EPSが1.32-1.38USD(同1.26USD)。2019年5月以降の自社株買い5.0億USDの実施に続き、新たに7.5億USDの自社株買いを発表。5G通信計測機器市場は同社とアンリツが世界を実質的に二分。端末メーカーの5Gスマホ新製品投入に伴う通信計測機器需要拡大が見込まれる(李)
マッチ・グループ(MTCH)
市場:NYSE・・・2021/2/5に2020/12期4Q(10-12月)の決算発表を予定
・1995年設立。Z世代向けに世界最大級の恋愛マッチングサービス「match.com」を運営。「Tinder」、「Pairs」などのマッチングアプリを世界190ヵ国で45種類以上にわたり展開。20年7月に新規上場。
・11/4発表の2020/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比18.1%増の6.40億USD、純利益が同3.1%増の1.33億USD。Non-GAAPの調整後EBITDAが同21.4%増の2.49億USD。主力アプリ「Tinder」のほか有料ユーザーが同12.3%増の1,080万人となり、1人当たり売上高(ARPU)が同4%増だった。
・2020/12期4Q(10-12月)の会社計画は、コロナ禍による外出自粛の追い風を見込み、売上高が6.4-6.5億USD(前年同期5.47億USD)、営業利益が2.04-2.14億USD(同1.80億USD)、調整後EBITDAが2.35-2.45億USD(同2.15億USD)。主力の「Tinder」ユーザー数の伸び率鈍化のなか、その他アプリの3Q売上高が前年同期比23%増収。「Tinder」に次ぐ看板アプリの育成が成長の鍵となろう。(李)
テイクツー・インタラクティブ・ソフトウエア(TTWO)
市場:NASDAQ・・・2021/2/8に2021/3期3Q(10-12月)の決算発表を予定
・1993年設立。家庭用ゲームソフトウェア開発・販売を営むゲーム企業。クラウドストリーミングなどオンライン配信や実店舗など複数チャネルで製品を提供。傘下にRockstar Gamesや2K Gamesがある。
・11/6発表の2021/3期2Q(7-9月)は、売上高が前年同期比1.9%減の8.41億USD、純利益が同38.3%増の9,932万USD。実店舗の同46.4%減収(1.30億USD)が全体の減収に響いたが、人気ゲーム「NBA2K」を筆頭にデジタル・オンライン部門の同15.5%増収(7.11億USD)が利益面で貢献した。
・通期会社計画を上方修正。売上高を28.9-29.0億USD(従来計画30.5-31.5億USD)、純利益を3.72-4.03億USD(同3.19-3.80億USD)へ引き上げた。ビデオゲーム市場規模は2018年の約1,310億ドルから2025年には3,000億ドルに拡大との見通しの下、同社CEOは、バスケットボールの「NBA2K」、ゴルフの「PGA TOUR 2K21」などのヒット作が更に業績を牽引するほか、利益率改善を見込んでいる。(李)
トゥイリオ(TWLO)
市場:NYSE・・・2021/2/5に2020/12期4Q(10-12月)の決算発表を予定
・2008年設立。企業のWeb開発者向けに、電話・IP音声通信・テキストメッセージをWeb・モバイル・電話アプリに統合するクラウド・コミュニケーション・プラットフォームを提供するソフトウェア会社。
・10/26発表の2020/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比51.8%増の4.48億USD、Non-GAAPの調整後純利益が同37.0%増の703万USD。稼働ユーザー数が同21%増となったほか、Verizonに提供するA2Pサービス(ユーザー認証向けSMSなど)が約1,000万USDの売上高かつ粗利益に寄与。
・2020/12期4Q会社計画は、A2Pサービスを含む売上高が4.5-4.55億USD(前期実績3.31億USD)、営業利益が▲1,500-▲1,000万USD(同▲2.68億USD)へ赤字縮小。今後4年間は年率平均30%の増収を見込む。8/6に1株247USDで株式売出しを実施して14億USDを調達後、10/12に顧客データプラットフォームを運営するSegment社を買収。積極的な買収戦略により成長加速を目指す方針だ。
(※)決算発表の予定は1/15現在であり、変更される可能性があります。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。